デジタル化の波の中での発想の転換

その後、日本でも2000年代半ばごろから「スクラップブッキング」に似たブームが上陸。プロジェクトチームの読みは見事に当たり、関連商材も好調な売り上げを記録しました。

さらに2011年、日本を襲った東日本大震災が、人々の心に「写真という人生の思い出を大切にしなければ」との感情を想起させました。

津波で家族のアルバムが流されるといったシーンがあちこちで起こり、「写真を大切に保存しなければ」と感じた方も多かった。

私が当時インタビューした方々は、「家族みんなで寄せ書きを書いたアルバムを、銀行の貸金庫に入れました」や、「紙焼き写真をスキャンして、そのデータを北海道と九州にいる兄弟に預かってもらいました」などと聞かせてくれました。

家族との大切な思い出を、写真や手書きで残したい……、ところがちょうどこの後、写真や文具業界にとって「逆風」とも言える動きが起こります。それが2011~13年にかけて急速に普及した、スマートフォンとSNS。

一般に、スマホはガラケーに比べ、撮影した画像の解像度が高いうえ、SNSにも瞬時にアップできる。さらにLINEの普及(おもに12年とされる)もあり、紙焼き写真や「紙に書く」文化や市場は、縮小傾向を見せ始めます。

時代は完全に、「アナログからデジタルへ」。ですが呉竹は、ここで諦めませんでした。いち早く市場の縮小を感じ取り、「ならば文具という『モノ』だけでなく、モノを通じて体験できる『コト』を売っていこう、と発想を切り替えたのです」と佐藤さん。

蛍光筆ぺんづくり体験が人気に

2015年開催のホビーショーでは、「蛍光筆ぺんづくり体験」という斬新な企画を考案。同会場でユーザーに好きなインクの色を選んでもらい、ペン本体に入れる「中綿」がインクを吸い上げる様子を、直接見て試してもらうことに。

すると、「面白い」「もっとやってみたい」との声が次々と寄せられ、「私たちの社内でも、イベント時だけでなく店頭やご自宅で、もっと手軽に手作りの魅力を体験してもらえるペンを作れないか、との思いが高まりました」(佐藤さん)。