依存症の本質は「苦痛の緩和」

「依存症の本質とは快楽ではなくて苦痛である」

これは、依存症の専門医である松本俊彦氏の『薬物依存症』(ちくま新書)に出てくる言葉です。

世間では、依存症とは快楽を求めてハマっていくものだとイメージされています。薬物なら摂取したときのハイになる高揚感や多幸感を求めて、アルコールなら酔った酩酊感や快感を求めてハマっていくということです。この快感に耽溺していくことを「正の強化」といいます。これまで依存症は、脳の報酬系に作用する「正の強化」が主な要因とされていました。

これに対して、心理的苦痛や否定的感情を一時的に和らげてくれることを「負の強化」といいます。そして実は、この一時的にストレスが緩和されるからハマっていく、という「負の強化」のほうが、人を依存の沼に引きずり込む力が強いのです。

ここでいうストレスとは、大きく言えば「生きづらさ」です。過去から抱えているトラウマや、逆境体験、仕事のストレス、友人や夫婦間など人間関係のストレス……その種類はさまざまです。

悲しい男
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人は誰でも何かしら生きづらさを抱えています。そんなとき、薬物やアルコールで、まるで頭痛のときに鎮痛剤を使うように、簡単に苦痛を和らげてくれるものを使い続けることは、依存症当事者でない人にもイメージしやすいと思います。

盗撮行為に依存する人は、性欲を満たすことにハマる以上に、一連の行為における「緊張と緊張の緩和」により、ストレスが軽減されることに耽溺していくのです。この「一時的にストレスが緩和・軽減されるからハマっていく」ことこそ、行為依存の本質であると考えています。

「意志が弱いから」依存症へのスティグマはいつまで続くのか

もちろん、それはあくまでも一時的に生きづらさを棚上げするだけで、根本的な解決にはなっていません。盗撮加害者にも「負の強化」の側面があるとはいえ、被害者感情を鑑みると加害者臨床の場では、慎重に対応することが求められます。

しかし、盗撮や痴漢など性的な問題行動においては、「性欲を抑えきれなくて犯行に及んだ」といまだに言われ続けています。「依存症になる人は意志が弱い」「だらしがない」というイメージもあります。

先ほど挙げた「依存症の本質とは快楽ではなくて苦痛である」という言葉が表すように、依存症の「負の強化」のメカニズムも伝えていくことで、世間にあふれる依存症への先入観や誤解を払拭し、治療の必要性を啓蒙できればと願ってやみません。