盗撮の優越感は「日記を盗み見る感覚」

先述の「認知の歪み」に加え、支配欲や優越感も盗撮加害者がよく口にする心理です。以下の発言は、ある盗撮加害者の言葉です。

「盗撮とは、相手に気づかれないように、日記を盗み見る行為なんです。その優越感は、日常生活では絶対に味わえないですから。そして画像や動画を保存することで、支配欲や所有欲が満たされるのです」

日記を盗み見るような感覚――ここでいう「日記」とは、もちろんメタファーです。相手しか知らないプライベートなこと、しかも相手は他人には見られたくないと思っていることを指します。そんなプライベートかつデリケートなものを、相手に気づかれずに自分だけが知り、それを一方的に手にしているという優越感です。

相手が人に見せたくないほど大切にしているものを、自分はいとも簡単に手に入れて(しかも当人に気づかれずに)自在にコントロールできるのだ、という歪んだ支配欲・所有欲もうかがえます。

痴漢やレイプなどほかの性犯罪と盗撮が異なる点は、相手の反応を間近で見て楽しむような「直接的な支配欲求」ではないということです。相手は、よもや自分が被害に遭っていることには気づいていない。しかし自分は安全圏(もちろん安全ではありませんが)にいて、「俺はお前のことをすべて知ってるけど、お前は俺のこと知らないよな」と思っているような、非対称性における優越感を感じ取ることができます。

支配欲は劣等感にとらわれていることの裏返し

この優越感や支配欲は、裏返せばそれだけ彼らが劣等感にとらわれている証しです。

斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)
斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)

私が出会った盗撮加害者には、女性経験が乏しく、異性とコミュニケーションを取るのが苦手な人が多くいました。また、その場や集団の中でふさわしい振る舞いができなかったり、相手の気持ちを非言語的コミュニケーションから読み取るのが困難な人など、自閉スペクトラム症(ASD)の傾向があるケースも少なくありません。

本人たちは「女性と付き合いたい」「コミュニケーションを取りたい」「女性の体に触れたい」という強い願望を抱きながらも、それができないために、代償行為として実現可能な性的逸脱行動によって「自分は満足している」と思い込みます。これを「すり替え充足」といいますが、行為依存のひとつの特徴です。

ここまで見てきたように、盗撮をする背景には劣等感、人間関係でのコンプレックス、歪んだ承認欲求と自尊感情の欠如、そして優越感や支配欲など、さまざまな要因が複雑に絡み合っていることがわかります。しかし、彼らはなぜそれらを、ほかでもない盗撮によって充足させるに至ったのでしょうか。そこには、日本の男性が抱える問題があるのです。

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