「小型カメラを使ってないから犯罪ではない」

(9)有意義なマスターベーションをするために盗撮することは仕方ない。

この認知の歪みは、特に盗撮を始めた初期にとらわれやすい思考パターンです。自己使用目的(マスターベーション目的)で始めた人も、次第に「盗撮のための盗撮」に移行していくのが、常習化する盗撮加害者の典型的なパターンです。

(10)(「盗撮は犯罪」というポスターを見て)俺のやっているのはスマホで撮るだけで、デジカメや小型カメラを使うわけではないから犯罪ではない。

この認知の歪みは、痴漢加害者にも見られるものでした。駅構内に貼ってある「痴漢は犯罪です!」というポスターを見て、「俺がやっている行為は、すれ違いざまにわからないように触るだけだから犯罪ではない」と考えるのです。本当に都合のいい捉え方ですが、悲しいかな、これが彼らの目に映る現実なのです。

ほかにも、「のぞかれやすい建物にした建築士のほうが悪い」というのもありました。

加害者臨床の現場に長年関わっている専門家の私ですら、このような認知の歪みにあぜんとすることがあります。これを読んでいるみなさんが嫌悪感を抱くのも当然のことです。

いずれも彼らの思考には、被害者の存在が完全に抜け落ちていますし、この歪んだ認知は、問題行動を繰り返し成功するほど強化されていきます。まるで鍋の底にこびりついた焦げのように、ちょっとやそっとでは落ちないほど強固なものになっていきます。

性欲がコントロールできないから盗撮するわけではない

ほかの性犯罪と同様、盗撮も「性欲が強いから」「性欲解消のため」「性欲のコントロールができないから」といった「性欲原因論」に矮小化して捉えると、その本質を見誤ります。彼らは行動化するとき、被害者や場所、時間帯、状況を慎重に選択しています。交番の前でも見境なく盗撮する加害者はいません。そういう意味で、彼らは性欲をしっかりとコントロールしているのです。