根幹から変質した日銀の異次元緩和政策
米国では、ワクチン接種の進捗に伴う景気の回復を受けて、金融緩和の出口を探る議論が始まった。一方、日本では緩和の出口が一向に見えない。日本銀行が掲げる物価目標は、前年比2%だ。しかし、7月に公表した日銀の経済見通しでは、2023年度も物価は1.0%にとどまる。
異次元緩和の開始当初、「2年以内に達成する」としていた目標だ。これが一度も達成されることなく、すでに8年以上が過ぎた。日銀の見通しどおりであれば、開始から少なくとも10年は目標を達成できないことになる。
この間、異次元緩和の政策は根幹から変質した。本来ならば政策全体を見直すべき事態である。しかし、日銀は変質を真正面から説明することなく、「2%目標」の見直しも行わない。金融政策の漂流は続く。
「すべて講じる」から「待ち」の姿勢へ
異次元緩和の変質を端的に示すのが、物価目標へのコミットメント(約束)だ。13年4月の開始当初、日銀は2年以内に目標を達成するとして、「施策の逐次投入はせず、必要な施策をすべて講じる」と言い切った。
しかし、いまは、目標に達しない物価見通しにもかかわらず、追加の緩和措置を講じない。ただ「粘り強く金融緩和を続ける」とするばかりだ。「必要な施策をすべて講じる」とした当初の姿勢からは、180度の転換である。
この姿勢は、各国中央銀行が標ぼうするインフレターゲティング(物価目標政策)の理念からも外れる。インフレターゲティングは、物価目標と見通しの間のギャップを測り、これを埋めるように緩和や引き締めを行う政策枠組みである。23年度でも大きなギャップが残るにもかかわらず、追加の緩和措置を講じないのは「ターゲティング」に当たらない。
もちろん、背後にはゼロ金利制約があるだろう。しかし、日銀はゼロ金利制約の存在を認めない。むしろ「必要があれば、マイナス金利の深掘りも辞さない」とする。「必要があれば」というのは、異次元緩和の開始時に真っ向から否定した「施策の逐次投入」にほかならないが、特段の説明はない。追加緩和を講じない理由に、副作用を挙げるわけでもない。
現在の日銀の主張を一貫した論理の中で理解することは、ほぼ不可能である。