非核化に向けたアメリカと北朝鮮の協議は停滞中
ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国に日本、アメリカ、中国、北朝鮮などを加えた計27カ国・地域による「ASEAN地域フォーラム(ARF)」の外相会議が8月6日、オンライン形式で行われた。
会議の主なテーマは、朝鮮半島の非核化と南シナ海問題だった。会議の中でアメリカのブリンケン国務長官は「朝鮮半島の完全な非核化」を訴え、中国に対して「軍事力を背景にした南シナ海での挑発的行動の停止」を強く求めた。
これに対し、中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は、北朝鮮の核問題に触れ「国連の制裁措置の緩和こそが、いまの行き詰まった状態を打破する」と主張した。
非核化に向けてのアメリカと北朝鮮の協議は停滞していることは間違いない。トランプ前大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記によるトップ会談以来、表面的な動きはない。
王毅氏は「ここ数年、核と長距離ミサイル発射の実験を停止している」と北朝鮮を持ち上げ、制裁緩和が「対話と協議の再開のための雰囲気を作り出す」と強調する。なぜ、中国は北朝鮮の肩を持ち、膠着状態を解消する糸口として北朝鮮が切望する制裁緩和を求めるのか。
習近平政権が最も恐れいているもの
国連安全保障理事会は、北朝鮮の核実験や弾道ミサイルの発射が相次いだ2017年に、石炭や鉄鉱石など北朝鮮の主要産品の輸出を禁止し、石油精製品の輸入量を9割減まで制限する制裁決議を採択し、各国がこれを実行してきた。
制裁によってただでさえ悪い北朝鮮の台所事情がさらに悪化し、これに新型コロナ禍や災害が重なり、経済が大きく困窮した。疲弊した北朝鮮の人々が国境を接する中国側に逃げ込んで来ることも多く、こうした脱北者が増え続けると、世界最大の人口(約14億4000万人)を抱える中国にとって経済的にも政治的にも大きな負担となる。仮に北朝鮮が崩壊した場合、脱北者の数は計り知れない。これを中国は恐れている。
制裁緩和の履行は、対立が強まるアメリカに屈辱を与えることになり、国際社会での中国の存在感が増す。中国は常にアメリカに圧力を加えることを念頭に置いているのだ。
たとえば、アフガニスタンからのアメリカ軍の撤退。イスラム原理主義勢力のタリバンが現政権を倒して実権を握ったことを、アメリカの評価を落とす好機として捉え、中国共産党機関紙「人民日報」系列の中国メディアを使って「ベトナム戦争の失敗以上にアメリカが無力であることを証明した」とアピールしている。
こうした抜け目のない中国を縛るには、日本と欧米の強固な協力が欠かせない。習近平(シー・チンピン)政権は民主主義国家の固い連携を一番、恐れている。それゆえに社会主義を強く掲げるのである。