新型コロナウイルス禍の2020年度は、生活保護の申請件数がリーマンショック以来11年ぶりに増加した。一方で、依然として申請にはさまざまなハードルがある。生活困窮者の支援団体「つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さんは「親族に『援助は可能か』と問い合わせる扶養照会という制度が、関係者全員を苦しめている」という――。
※本稿は、稲葉剛『貧困パンデミック』(明石書店)の一部を再編集したものです。
離婚した妻と娘に扶養照会されたら…
私たちは、厚生労働省の担当者に扶養照会の実態を知ってもらうため、扶養照会に関わったことのある「当事者」の体験談をネットで募集した。その結果、150人以上の方から切実な声が寄せられた。
ここで言う「当事者」とは、生活保護の利用経験のある方や生活に困窮していて福祉事務所に相談に行ったことのある方だけではない。福祉事務所から扶養照会の手紙を受け取った親族や、福祉事務所の職員・元職員からも多くの体験談が寄せられた。
生活保護を利用した経験のある方からは、家族に連絡をされることが精神的な苦痛になったという声が多数寄せられた。
生活保護を申請した際に、その時点で離婚した元嫁と娘の名前、連絡先を書けと言われた。娘が成人した時は扶養照会をすることもあると言われた。拒否したかったが、その時は生活保護申請して生き延びたいので書いた。拒否したかったし、今からでも扶養照会は廃止して、離婚した元家族に心理的負担を負わせたくない。
「扶養照会しなければ申請は受けられない」
DVや虐待の被害者からの声も少なくなかった。厚生労働省は以前から、DVや虐待などの事情がある場合は「直接照会は不要」という通知を出しているが、実際には連絡をされてしまい、実害を被ったという声も複数寄せられた。
申請時、父親に扶養照会すると言われ、DVにより逃げているのでやめてほしいと伝えましたが、規則なので扶養照会しなければ申請は受けられないと言われ、仕方なく了承しました。福祉事務所からの扶養照会により、父親に居場所がバレてしまい家に何度も押しかけられました。こどもの出産手当一時金を父親の口座振込に変更され奪われたり、保護費を奪われたり、家の中の家電等も奪われました。今は転居し安心して暮らせていますが、あの時の恐怖は忘れられません。DV加害者への扶養照会は禁止にしてもらいたいと願います。