申請者本人の意向を尊重するマニュアル改正

扶養照会の抜本的見直しを求めるネット署名の賛同は5万8千人を超えた。私たちはさらなる改善を求め、3月17日、厚労省に再度の要望を行った。

稲葉剛『貧困パンデミック』(明石書店)
稲葉剛『貧困パンデミック』(明石書店)

その場で私は、「厚労省が『生活保護は権利』という広報を始めたのは評価しているが、『本人がいくら拒否しても、役所は問答無用で親族に連絡できる』という仕組みが残っていれば、『権利』とは言えない。生活保護制度の目的の一つは、利用者の自立を助長することであるが、本人の自己決定権を尊重しなければ、役所は本人との間に信頼関係を構築できず、保護の目的も達成できなくなるのではないか」と指摘した。

こうした私たちの声が届いたのだろうか。3月末、厚労省は福祉事務所職員の実務マニュアルである「生活保護手帳別冊問答集」の内容を一部改訂するという通知を新たに出した。そこには、生活保護の申請者が扶養照会を拒んだ場合、その理由について「特に丁寧に聞き取りを行い」、照会をしなくてもよい場合にあたるかどうかを検討するという対応方針が新たに示されたのである。また、扶養照会を実施するのは「扶養義務の履行が期待できる」と判断される者に限る、という点も明確になった。

この改訂は、私たちの要望に対する満額回答ではなかったが、ご本人の意向を尊重するという方針が示されたことは評価したい。少なくとも「問答無用で親族に連絡をとる」ということはできなくなったのである。

今後とも、抜本的な見直しに向けて働きかけを継続していくが、当面は厚労省が示した新方針が周知徹底され、利用者本位の仕組みに変わっていくことを期待したい。

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