こうした根拠不明の手綱さばきが当たり前になってしまうと、家計や企業のような経済主体は何を基準に消費・投資計画を構築すべきか分からなくなる。

「COVID-19 Community Mobility Reports」が示す移動傾向はそれほどコロナ以前と変わっていないのに、ISバランスにおける「民間部門の貯蓄過剰」が拡大の一途にあるのは、猜疑心が膨らんだ結果、「貯蓄が正義」という防衛本能が発揮されたからではないか。

パンデミック終息後にも影響は残るか

世界的に見れば、ワクチン接種率を高め、重症者・死亡者の水準を抑制し、行動制限を解除するというアプローチが現状における唯一無二の出口戦略と見受けられる。

緊急事態宣言を乱発し、その都度、細かな行動規制をかければ民間部門の猜疑心は増し、貯蓄に依存する日本経済の体質は不変のままだろう。少なくとも過去1年はそうだったように見える。

問題は、パンデミックが完全終息しても、民間部門が抱く為政者への猜疑心が抱かれたままになり、消費・投資意欲はさして回復せずに景気浮揚もままならないという状況に至ることである。日本経済は元々「民間部門の貯蓄過剰」が常態化している国だけに、その度合いが一段と強まることは相当に懸念される。

前回のコラムで筆者は「2020年に出現した極端な姿(※貯蓄過剰)は経済活動制限という特殊な政策の結果であり、永続性を期待するものではない」と述べたが、残念ながら、状況は変わらないどころか悪化している。

「民間部門の貯蓄過剰」は90年代後半から継続する日本の「失われた20年」を象徴する現象である。パンデミック対応を経て民間部門に植え付けられた猜疑心が「民間部門の貯蓄過剰」を一段とたきつけ、「失われた30年」ないし「失われた40年」への遠因とならないことを祈るばかりである。

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