若手社員から必ず出る「上司を見ていてうらやましく思えない」
産業医面談には、退職や転職の相談をしに来る人たちもいます。多くの場合、私の意見を聞きたいのではなく、気持ちを吐き出したり、既に持っている自分の結論を後押ししてほしかったりして来られているのだと思います。
社員たちには、一時的な感情や合理的でない判断による退職で後悔してほしくありません。ですので、多角的に自分の気持ち(判断)を見つめ直せるような面談を心がけています。
しかし、時には「もう会社をやめてもいいのではないか」と共鳴してしまうこともあります。
「会社をやめてもいい」と背中を押すタイミングの1つめは、職場の上司たちに自分の夢を描けない会社にいる時です。
毎年、若手社員から必ず聞くのが「上司たちをみていて、うらやましく思えないのに、こんなに頑張って働く意味がわからない」という相談です。
ほとんどの上司は住んでいる場所が遠く、都内に家を買えるほどは稼げそうにない。年の離れた先輩女性社員はほとんどが未婚かバツイチか、子供なし。つまり、結婚して子育てをしつつ働き続ける職場環境ではないようだ。中高年の上司たちで楽しそうに仕事をしている人がいないし、かといって、何か熱中するほどの趣味を持っているようでもなく、いつも仕事や家庭の愚痴ばかり言っている。うらやましいと思える、憧れの先輩がいない。自分はそのような年のとりかたはしたくない。これまでさまざまな声を聞いてきました。
「夢」が持てない若手を止める気にはなれない
もちろん、部下が上司たちの全てを知っているわけでもありませんし、自分の夢を実現している先輩も必ずいます。しかし、相談にくる社員にとって大切なのは、自分の夢を平均的な先輩たちが実現できているかどうかなのです。
人生の価値は、年収、住む場所、結婚や子供の有無、仕事のやりがいや趣味だけで決まるわけではありません。しかし、仕事には、我慢したり頑張ったりしなければならない時があります。自分のやる気を支えてくれる土台となる「夢」も持てないようでは、苦行の毎日となってしまいます。
努力や頑張りなくして、自分の能力(すなわち価値)を高めることは難しいでしょう。そのためにも、自分が夢を描けることは大切なのです。今の職場で夢を描けないのであれば、夢を描ける職場に移った方が、特に若いうちはいいのかもしれないと思うと、やめることを止めようとはなかなか思えません。