東京に戻ると症状がぶり返してしまうAさん

数年前、長時間労働者面談で初めて面談に来た勤続5年目の独身30代前半の女性Aさんは、不眠や不安発作、抑うつ気分、食欲低下などの症状が散見され、医療受診を勧めた結果、休職することになりました。

しばらくは都内で一人暮らしをしていましたが、日中はやることがなく会社のパソコンに家から接続したり、食生活もよくなかったりしたので、信州のご実家に帰ることを提案。その後も月1回、電話面談をしていましたが、住み慣れた環境に戻り、体調は次第に回復してきました。

しかし、2~3週間に1回、精神科にかかるために数日帰京する度に、不眠や焦りなどの症状がぶり返していました。それまでの面談で分かったことは、長時間労働は前職でもやっていて許容範囲内だが、部署内の人間関係や雰囲気に常々違和感を抱いており、その心労が大きいということでした。

部署の人々を変えられるとは思えず、自分の受け取り方の問題だと考えても、復職という言葉を聞くたびに気分が落ち込んでしまう。しかも実家から東京に戻る際、新幹線が都内に入ると、動悸や冷や汗を毎回かき、息苦しくなってしまうとのことでした。

東京駅
写真=iStock.com/RichLegg
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「復職」だけが選択肢ではない

そこで、東京に戻るのは復職のためでなく、転職も含めた社会復帰のためであることを認識していただくと、少し気分は楽になったようです。さらに翌月は東京に戻る際に、転職エージェントとの面談も予定してみると、症状はほとんど出なかったようでした。

しかも驚いたことに、何人かのエージェントと話しているうちに、現職よりも楽しく向き合えそうな仕事とのご縁があり、転職してしまいました。たまたま転職先も私の産業医先であり、転職後、元気に挨拶しに来てくれた笑顔が印象的でした。

このようなケースを私は何件か経験しています。会社を離れ、ある程度は元気になったものの、会社に戻ることが無意識レベルで恐怖になっている。それがなかなか治らない。そのような時、自分の経験談として、復職だけが選択肢ではないことを伝えるようにしています。