老後資金2000万円問題が話題になったのは2年前。当初から2000万円問題など存在しないと言い続けてきた経済コラムニストの大江英樹さんは「2000万円の根拠となった総務省の家計調査報告の最新データによると、老後30年間で不足する金額はたった55万円となりました」と指摘します――。
「2000万円問題」がわずか3年で「55万円問題」に
以前にもこのコラムで「老後2000万円問題」を取り上げたことがありました。私は2年前にこれが話題になった時からずっと一貫して「2000万円問題などというものは存在していない」と言い続けて来ましたし、さすがにもう「2000万円問題」をあおるのは一部の三流メディアぐらいで、FPや評論家の人たちもまともな発言をするようになってきました。
あの時に話題になったデータは総務省統計局が毎年実施している「家計調査報告」から抜き出したものですが、私はあの問題が起こる以前から、この「家計調査報告」はずっと検証してきましたし、2019年以降も経過を見続けています。そこで図表1をちょっとご覧ください。
これは総務省の「家計調査報告」を2017年の分から最近まで調べたものです。「2000万円問題」が話題になったのは2019年の6月3日に金融庁の金融審議会 市場ワーキンググループの報告書が出た時のことです。その報告書が出た時点では2017年のデータしかありませんでしたので、上記の表のように収入と支出の差が毎月5万4519円となっています。これを30年分に単純に引き直すと1963万円になりますから、「約2000万円不足する」というロジックだったわけです。
ところが翌年2018年のデータがそのすぐ後に出ましたが、それを見ると不足額は約1500万円となっています。さらに2019年になると今度は約1200万円と年々減少してきて、つい先頃発表された2020年版では何と不足額は30年間で55万円となっています。「2000万円問題」は知らないうちに「55万円問題」になってしまっていたのです。