※本稿は、レスリー・バーリン著・牧野洋訳『トラブルメーカーズ 「異端児」たちはいかにしてシリコンバレーを創ったのか?』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の「訳者あとがき」の一部を再編集したものです。
成長への道筋をつけたのは誰か
アップルのスティーブ・ジョブズについては誰もが知っていても、マイク・マークラと聞いてピンとくる人はどれだけいるだろうか?
マークラはアップルの初代会長だ。アップルに創業資金を提供し、当初はジョブズと並ぶ大株主だった。新規株式公開(IPO)に向けてビジネスプランを書いたほか、社長をはじめ経営幹部をスカウトするなど、初期のアップルで決定的な役割を果たしている。
世間的にはジョブズがアップルの顔だ。作家ウォルター・アイザクソンが書いた世界的ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』(講談社)が決定打になり、シリコンバレーを代表するヒーローになっている。
一方、歴史学者レスリー・バーリンによる『トラブルメーカーズ 「異端児」たちはいかにしてシリコンバレーを創ったのか?』は、まったく異なる景色を描いている。ガレージで生まれたスタートアップが大企業へ成長する道筋を付けたのはマークラなのである。20歳を超えたばかりのジョブズにとっては父親のような存在であり、唯一無二のメンターだった。
にもかかわらず、マークラの物語が詳細に体系立てて語られることはこれまでなかった。
情熱あふれる無名のアメリカ人たち
『トラブルメーカーズ』を一言で表現するとすれば、「プロジェクトXのシリコンバレー版」である。ご存じの通り、「プロジェクトX」はNHKのドキュメンタリー番組。熱い情熱を抱いて夢を実現した無名の日本人を描いて、大ヒットした。
『トラブルメーカーズ』の主人公も情熱あふれる無名のアメリカ人であり――全員で7人――シリコンバレーの事実上の生みの親だ。「シリコンバレーの見えざるヒーロー」と言い換えてもいい。マークラも「見えざるヒーロー」の一人である。