日本の変化の兆し、東大発「本郷バレー」
日本もかつてイノベーションの拠点として注目されていた。ソニーが生み出した「トランジスタラジオ」「CD(コンパクトディスク)」「ウォークマン」は日本発の代表的イノベーションだった(大学が蚊帳の外に置かれていたという点でシリコンバレーモデルと異なった)。それなのに、今では「失われた30年」とも揶揄されるほど日本は長期低迷状態に置かれている。再び輝きを取り戻せるのだろうか。
変化の機運は出ている。好例は東京大学だ。長らく高級官僚と大企業幹部の養成機関として機能してきたのに、今では「本郷バレー」と呼ばれるほど大学発スタートアップの拠点としても注目されている。
大学が起業エコシステムの中心に位置しているという点で、シリコンバレーと「本郷バレー」は似ている。「最優秀のスタンフォード大生は起業する」といわれている。人工知能(AI)研究で先行する松尾研究室の動きなどを見ると、「最優秀の東大生は起業する」という時代もあり得るのではないかと思えてくる。
変化は東京に限らない。福岡市は2012年、改革派市長として鳴らす高島宗一郎のイニシアチブで「スタートアップ都市」を宣言している。起業エコシステムの構築を目指して「スタートアップカフェ」を始めたり、能力ある外国人の流入促進に向けて「スタートアップビザ」制度を設けたりしている。
日本最大の問題はリスクマネーの欠如
もちろん問題は山積している。起業エコシステムの一翼を担うベンチャーキャピタルを見てみよう。経産省のデータによれば、ベンチャーキャピタルによる投資額(2018年)は日本では2700億円強にとどまる。アメリカ(14兆円以上)の2%以下である。
なぜこれほどの差が付くのか。最大の原因はリスクマネーの欠如だ。それを象徴しているのがリスクマネーの代表格であるヘッジファンド。アメリカでは運用残高が2兆7000億ドル(300兆円弱)に上るほど巨大であるのに、日本では長らく「ハゲタカファンド」と毛嫌いされて存在しないも同然の状態だ。
ヘッジファンドの代わりに日本には何があるのか。実質的な国営金融機関である、ゆうちょ銀行(2020年3月末で約183兆円)とかんぽ生命保険(同約72兆円)だ。両社を合わせるだけでアメリカのヘッジファンドに匹敵する資金規模になる。