コロナ禍でも売上を伸ばす飲食店はどんな工夫をしているのか。マーケティングに詳しい小阪裕司氏は「料理のおいしさだけではなく、プラスアルファの価値を提供している飲食店が伸びている。テイクアウトでも工夫することで、顧客がもとめている『心の豊かな食卓』を提供することができる」という——。

※本稿は、小阪裕司『「顧客消滅」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)の内容を抜粋・編集したものです。

蒲焼日本料理
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創業当時から売れ続けている塩豆大福

コロナ禍によって改めて、「自分たちの提供すべき価値は何か」を問い直す必要に迫られ、今懸命に改革を行っている企業がある。伊豆を中心に約10店舗を展開するある和菓子店である。

同社は2020年4月の緊急事態宣言に際して店をすべて閉めたのだが、その後、5月中旬から各店の営業を順次再開した。そのとき、店によって売上の回復に大きな差があった。その違いは、フロー型(一見客中心)の店かストック型(既存客中心)の店かの違いにあった。さらに興味深いことは、この2種類の店では、売れるものも異なることが明確になったことである。

以前は、ストック型の店にも多くのフロー客が来ていたため、その違いはあまり浮き彫りにならなかった。しかし、ストック型の店では、フロー客が消滅し、ストック顧客だけが残った。そうしたところ、まるで池の水を抜いたら底からそれまで見えていなかったものが見えてきたように、ストック顧客が買うものが浮き彫りになってきたのだ。

それは、創業当時から売り続けている定番商品、あんこが自慢の「塩豆大福」だった。

この和菓子店のルーツは、戦後まもなく創業された小さな観光土産の卸菓子製造会社。その後、それまでに培った和菓子製造技術と知識をもとに同店が立ち上げられたのだが、その頃から作り続け、売り続けているのが「塩豆大福」だ。