顧客から大絶賛された女将のひと工夫

これについても一つ、事例を紹介したい。「価値のパッケージ化」という取り組みだ。

岐阜県にある割烹料理店の例である。この店ではコロナで通常営業ができない中、店自慢の鰻料理を真空パックにしてテイクアウトと通販で売っていた。当初は真空パックにたれなど一般的なものだけを同封しており、お客さんには十分満足いただいていたのだが、同店の女将は何か足りないと感じていた。

この「足りない」感覚は、「自分たちの提供する価値は何か」の問いに通ずる。そこを改めて考えると、自店は料理を提供するだけでなく「心の豊かさ」を売る店。テイクアウトでも顧客の「心豊かな食卓」を提供する必要がある。それこそが、自分たちが提供すべき価値だと考えた。では、どうしたらその価値を具現化できるか。

そこで行ったことは、「笹」の同封だ。笹とは、普段お店で焼き物を出すときに盛り付けにあしらわれている熊笹。それにさらに店主手書きのメッセージなどを同封するようにしたところ、お客さんに大絶賛された。こういう取り組みを私たちは「価値のパッケージ化」と呼んでいる。

テイクアウトだけで常連を増やした“イタリアン弁当”

さらに、千葉県にあるイタリアンレストランの例も紹介しよう。店主はコロナ対策の一つとして、顧客向けにテイクアウトの弁当を作り販売していた。そこに先の岐阜の割烹料理店の取り組みを知り、彼も同様に考えた。

そこで行ったのは、弁当に手書きのメニューを付けるとともに、フィレンツェの風景が描かれた特製ランチョンマットを同封。フォークやナイフ、エプロンも用意し、弁当もイタリアを思わせる色合いの巻紙で包むなど、「家でも仕事場のデスクでも会議室でも、イタリアンレストランが思い出せるように」にこだわった。

こうしてリニューアルされた「イタリアン伊勢海老弁当」はやはり大絶賛だったのだが、それだけではない効果があった。このセットを頼んだお客さんが、再びお店にも来店してくれるようになったのだ。コロナが怖くて行けなかったのだが、このセットで店の雰囲気を思い出し、いても立ってもいられなくなったというのである。

まさに「価値のパッケージ化」を通じて「自分たちの提供する価値」が伝わった、何よりの証拠だろう。