そして「マーケティング」。学生たちの情報収集である。最初の2カ月間はほとんど選手の観察にあてた。練習は素振りとゴロ捕り、ベースランニングだけ。150人ほどの部員の顔と名前をおぼえ、動きをウオッチした。
練習は午前、午後に分けて行われる。江藤監督は午前8時から日没まで、グラウンドで立ち続けた。ユニホームを着れば、何時間でも平気なのだ。
「基本練習をさせながら、一人ひとり見て歩きました。ひとつは野球の能力を見ること、もうひとつは性格を知りたいことでした」
そういえば、慶應体育会には「LEAP」というリーダー養成の実学ゼミナールがある。当時の主将の湯本、主務の石井新は、その講習を受講していた。どこか江藤監督のチームづくりは「LEAP」のプログラムとも共通していた。
講習で啓発された湯本主将は「自己目標シート」なる紙を全部員に提出させた。その束を江藤監督に渡した。が、じつは江藤監督は一度目を通した後、目標シートをうっちゃった。
自己PRが多かったからだ、と江藤監督は説明する。
「(目標シートは)ボツにしましたね。実際に単純な作業の練習にどれだけ取り組めるかが大事なんです。陰ひなたのあるヤツはダメ。人の言うことを素直に聞けないヤツもダメです」
もはや理屈ではない。グラウンドにボールが落ちていたら、必ず拾う。ボールを足で蹴飛ばすピッチャーは絶対、ストライクが入らない。バットをまたいだらヒットは打てない。「感謝」を忘れる選手は成長しないのだ。
「僕は野球の神様は必ずいると信じていますから」