大学野球界の価値観を根底から変えた「イノベーション」とは
『マネジメント』の鉄則同様、江藤監督は学生の欲求、現実、価値設定からチームづくりをスタートさせた。「1000本素振り」や「ゴロ捕球」「ベースランニング」など、基本の反復練習を課す中で「競争意識」を刺激する。
例えば「160キロバント」である。打撃マシンの160キロの速球をうまくバントできたらベンチに入れるゾと宣言し、非レギュラー組のやる気を促した。レギュラー組の危機感をあおった。
組織を成長させるためには「イノベーション」(革新)も必要である。江藤監督はマネジメントチームを整備する。就任するや、学生コーチを廃止した。
これまで、レギュラーとなる見込みのない上級生10人ほどがコーチとなり、技術指導に携わっていた。30人しか入れない第一野球部寮にも入り、コーチという権力を握る。江藤監督は就任直後、学生コーチを部屋に呼んだ。
「どうして君らは学生コーチになったのだ?」
「選手になれないからです」
「じゃ、そんな君らが技術を指導するのはおかしいだろう」
石井主務は「慣例」を盾に学生コーチを守ろうとした。「伝統ですから」と。
そんなとき、江藤監督は言うのだ。
「でも勝てなかったじゃないか」。自らつくった「コーチ資格11カ条」の紙を配った。「これにあてはまるなら俺の手足になってくれ」。ついに学生コーチの名称を「スタッフ」に改め、ベンチ入りする選手たちのサポート役に徹するようにさせた。特権を剥奪し、第一寮からも追い出した。
江藤コーチは身振り手振りを交え、説明する。突き放す格好をしては、両手で持ち上げるマネをする。
「これで(学生スタッフたちが)ふてくされるかと思ったら、逆にガーッときました。メリハリです。どんな職場も一緒でしょ。みんなが自分を向くまで、いろんな葛藤がありますよ。どうやって自分に向かせるかが、リーダーの最初の仕事かなと思います」