秋の早慶戦。NHKの生中継に日本中が熱狂した。低迷していた大学野球が、なぜここまで盛り上がったのか。「革命」の裏にあったのは、緻密なマネジメントだった――。
最古の歴史を持つ「陸の王者」が11季ぶりの優勝
体系的な組織論か、経験ゆえの指導力か。はやりの『もしドラ※』ではないけれど、慶應大学野球部が勝つ集団に変貌した。いわゆる「KEIO革命」。プロセスを見ると、“経営学の父”ピーター・ドラッカー氏の『マネジメント』を読むがごとし、なのである。(※岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社))
慶大野球部は1888(明治21)年創部、東京六大学で最古の歴史を誇る。優勝から遠ざかっていた「陸の王者」なれど、慶大OBで元プロ野球選手の江藤省三が監督に就任するや、2010年春の東京六大学リーグで11シーズンぶりの優勝を遂げた。
秋のシーズンでも早慶戦で勝ち点を挙げ、50年ぶりの優勝決定戦に持ち込んだ。相手が宿敵早大。連覇は逃したけれど、超満員の神宮球場を沸かした。NHKが急遽、生中継し、メディア露出では同じ日のプロ野球の日本シリーズを圧倒した。
しかも敵役が早大の斎藤佑樹(日本ハム)である。“佑ちゃん”をたたくゾと野球部員を鼓舞し、野球ファンをもアツくした。「何か」を持っている斎藤は「何か、とは、仲間です」とのたまった。
では慶大復活の理由は何か、と問えば、68歳の江藤監督は即答する。
「僕は信頼だと思います」
江藤監督は慶大卒業後、巨人、中日でプレーし、巨人、横浜、千葉などでコーチを務めた。野球教室も開催するなど、明快な理論と丁寧な指導では定評がある。ちなみに、兄がセ・パ両リーグで首位打者を獲得した故・江藤慎一氏。
「自分のアマチュアを指導していくときのキーワードは信頼なんです。強い組織とは何ぞやと言われたら、僕は信頼だと思う。信頼がお互いの絆を強くしていくのです」