慶大体育会が9年前から行っている「リーダー教育」。OBと学生が相互に学びあう姿は、福澤諭吉の説く「半学半教」に重なる。「部活」と「就活」。その両面で実績を出す強さの秘密とは──。
「原理原則」を体系的に習得する企業なみの研修
新年である。新たなチャレンジである。混沌とした時代を乗り切るため、慶應義塾体育会がユニークなリーダー育成に乗り出した。スポーツの世界も社会も一緒。“経営学の父”ピーター・ドラッカーのいう「人は最大の資産」との思想が底流に流れている。
慶応大学が9年前から始めた実学ゼミナールの「LEAP」(Leadership Education Athlete Program)。体育会各部の部員が参加し、リーダーに必要なノウハウを習得する。4年生、卒業生らが講師となる。この講座を創設したスケート部ホッケー部門(アイスホッケー部)OBの中野森厳が説明する。「ビジネスで成功するためには、まず人づくりをやらなければいけない。とくにリーダーシップというのは、ある程度、状況を予見して準備する力があるかどうかなんです」。
リーダーとは天性の資質ではないのか。そう思いきや、横浜ゴムで常務を務めた80歳の中野は「やっぱり最初に理論がある」と言う。「原理原則を体系的におぼえ、実践しながら身につけていくほうが効果的。幾つかのスキルを身につけていくことでグレート・リーダーの道が開けていくわけです」。
百聞は一見にしかず、である。師走某日。慶応大学の三田キャンパスでの講座をのぞく。入り口には張り紙。〈制服、正装でないと入れません〉。
4年生が講師を務め、約20人の体育会学生がメモをとっていた。壁には各部の目標が書かれたA4判の白紙。ホッケー部〈早慶戦勝利。インカレ・ベスト8〉。相撲部〈80キロ以上の新入部員を3人以上入れる〉……。
講座は1日、90分間が4コマ。講師が手際よくプログラムを進めていく。テーマが「時間管理力」。講師が問いかける。「どんな時間がムダだと思うか?」。アメリカンフットボール部員がノートに書きだしていく。まるで練りに練られた企業研修みたいである。
学生たちは講座の一環として、OBが活躍する会社を訪問する。例えば、アイスホッケー部で中野の後輩にあたる古河直純が社長を務める日本ゼオンである。実社会のリーダーは「何を」持っているのか、JR東京駅そばの高層ビルの本社に古河社長をたずねた。