1歳半の子を育てると同時に61歳の認知症の父親を介護する32歳のひとり娘。父親の実家をめぐるお金のトラブル処理にも追われる。多大なストレスで父親との心中も考え、昨秋からは激しい咳が止まらない。そんな女性を前向きな気持ちにさせたのが、亡き母の手紙だった――(後編/全2回)。
100万円札束
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還暦父の“愛人”と娘の攻防戦

前編から続く)

関東地方に在住の32歳の藤原佐美さんは、会社員の夫(45)と1歳半の子供を持つ専業主婦だ。夫とは職場恋愛で結婚し、出産時に会社を辞めた。

藤原さんの目下最大の悩みは、家族と同居する62歳の父親。最近、7年以上前から交際していた女性に現金30万円を何度も渡すなどして貢いでいたことが発覚した。母親は30年前に病気で他界しており、父親が誰かと交際することは特に問題はないが、本人は若年性認知症と診断されていた。

藤原さんが相手交際の女性の身辺調査をしたところ、都心の家賃15万のマンションの一室に血統書付きの犬とともに住んでいることもわかった。それを聞いた父は「あの子はお金に困っていると言っていたが……」と顔を曇らせ、女性とはもう会わないと誓ったはずだった。

ところが、それから1カ月も経たないうちに、父親が週数回通う障がい者用の就労支援施設に女性がやって来て、コソコソ会っていることが判明する。藤原さんは父親に「密会していること全部知ってるよ」と告げると、「今日が最後だ。もう会わない」と父親は謝るわけでもなくただふてくされる。

「認知症のじいさんを相手にする以外の方法でお金を稼いだら?」

藤原さんは以前、女性に対して父親と会わないように釘を刺したことがある。今回、改めて父親の携帯から以下のような“警告メール”を送信した。

「会わないんじゃなかったのですか? 認知症のじいさんを相手にする以外の方法でお金を稼いだらどうですか?」

だが、返信はなし。あろうことか女性はその後、メールアドレスを変えてまで父親と連絡を取ってきた。そのふてぶてしさに、もともと胃が弱く、父親の女性問題で胃痛に悩まされていた藤原さんは、ついにダウンしてしまう。

「あの時は、つくづく『親って何なのか』と思いました。育ててもらった恩は返したいけれど、どうしてこんなに苦しめるの?って」

1歳半の息子のケアは24時間態勢。夫は仕事で忙しい。そこへきて還暦を超えた父親のまさかまさかの痴話ばなし。体も心もボロボロになって思い悩んだ藤原さんは、いっそ父親を殺して自分も死のうかという考えさえ頭をよぎったそうだ。

「父と私だけならいっそ……と思いましたが、私には夫と息子がいます。遺される側の気持ちになると、死ぬことはできませんでした……」

そんなとき藤原さんと父親の険悪な雰囲気を見かねたケアマネジャーがこう声をかけてくれた。

「このままでは娘さんのほうが精神的に参ってしまいます。お父さんのことは、(藤原さんが)通帳を預かることで最悪の事態は防げるのだから、これ以上介入しないほうがいいですよ」

それからしばらくは平穏を取り戻したかに見えたが、再び、藤原さんは大きな衝撃を受けることになる。父親のメモが見つかり、藤原さんが結婚して家を出た後の7年ほどで、父親は2000万円以上、風俗やホテル代などに使っていたことがわかったのだ。

「父は苦労人でした。自営業だった祖父の仕事は浮き沈みが激しかったため、父は猛勉強して国立大に合格し、奨学金をもらって通いました。安い寮に入り、ギリギリの貧乏生活で、食事が食パン1枚だったこともあったそうです。社会に出てからは、両親や年の離れた従妹を金銭的に援助していました。だから今回の金銭・女性トラブルは、本当に驚きでした。父の金遣いが荒くなった7年前は、認知症症状が現れ始め、仕事がうまくいかず、会社で責められたり、いじめられたりしていたそうです。私は結婚して家を出ていて全然気づきませんでしたが、父はつらかったんだと思います」