ひきこもりの娘を抱える80歳母親をたぶらかす不動産会社の悪知恵

母親から受け取った資料は、ある不動産会社の提案書でした。母親はこれまでの経緯を語りだしました。

「半年前に主人が亡くなった後、私が東京に所有する賃貸マンションを相続しました。しばらくしてから、主人が生前お世話になっていた不動産会社のA社からある提案を受けたのです」

黒背景に黒スーツのビジネスマン
写真=iStock.com/SasinParaksa
※写真はイメージです

母親が受けた提案とは次のようなものでした。

「今の賃貸マンションは古くなってきたので、次の契約更新では家賃を減額する方向でご検討いただかなければならないかと思われます。(無職の)ご長女の将来のことも心配でしょうから、家賃収入はできるだけ多い方がよいですよね。そこで、家賃収入を増やすため、賃貸不動産の買い替えをしてみてはどうでしょうか?」

そこまで母親の話を聞いた筆者は、資料に目を移し物件の情報を確認してみました。

■物件価格 2350万円
※購入資金は現在のマンションの売却1500万円と850万円のローンでまかなう
※売却や取得に伴う諸経費は別途かかる
■物件購入後の収入と支出の予定(月額)
家賃収入 7万9000円
(支出)
マンション管理費および修繕積立金 6500円
不動産会社への不動産管理委託費 3500円
ローンの支払い 7万3597円
※ローンは12年間支払う
※固定資産税の金額は不明

ローン返済期間中の赤字額は累計66万、ローン返済総額は約1060万

筆者は資料を基に電卓をたたきました。液晶画面に表示された金額を見て、筆者は驚きを隠せませんでした。

「この提案だと月額4597円の赤字になってしまいます。しかも、ここからさらに固定資産税も支払いますよね? それについてA社は何と言っていたのですか?」
「ローンは12年で終わるので、長女が65歳になった時に公的年金受給と同時に家賃収入も得られるように設定しました、と言っていました。それまでの赤字は先行投資だとも……」

※ローン返済期間中の赤字額は累計66万円、850万円のローン返済総額は金利を含め約1060万円。

「この物件で契約をしてしまったのですか?」
「いいえ、まだです。手付金も払っていません。提案を聞いて『何かがおかしい』ということは何となく分かるのですが、他に相談相手もおらず困っていました。やはり提案された物件しかないんでしょうか? 他に何か良い物件はないのでしょうか?」
「残念ながら私は不動産の専門家ではないので、具体的な物件のアドバイスをすることはできません。ですが、知人に働くことが難しいお子さんに理解のある不動産業者がいます。その者にも協力してもらって、ご家族にとってより良い物件をご紹介することができるかもしれません。それを基に比較検討していただく、というのはどうでしょうか?」
「はい。ぜひそのようにお願いします」
「では、ご長女にもその旨お伝えいただき、ご了承を得てください。ご確認が取れた後、すぐに行動に移しますね」

後日、長女からも了承が得られたので、筆者は知人の不動産業者にも協力してもらうことにしました。