コロナワクチンにすぐに飛びつかないというのは妥当な姿勢
メリットに気がいってしまうと、そのデメリットが考えられなくなることも多い。たとえば、コロナウイルスのワクチンが開発されているが健康な人に投与するのだから、いくらメリットがあってもデメリットを慎重に考える必要があるだろう。そういう点では、ワクチンが開発されても、すぐに飛びつかないというのは妥当な姿勢だ。
しかし、がん治療など、自分の命が脅威にさらされると、新たな治療に飛びつく人は少なくない。高齢者を長らく診療してきた立場から言わせてもらうと、高齢者のがんの場合、治療がうまくいっても体力が衰え、その後のQOL(生命の質)に悪影響を与え、結果的に長生きできないことも多い。
メタボ対策にしても、やせることで心血管障害の予防にはなるのだろうが、栄養状態が悪化することで、免疫機能が低下したり(これによってがんになりやすくなる)、体力が衰えたりすることも珍しくない。またコレステロールが男性ホルモンの材料であるため、この値を薬で下げることで、意欲が低下することも珍しくない。
結果的に、多くの疫学調査で、やや太めの人やコレステロール値が高い人のほうが長生きすることが明らかになっている。心血管障害の予防(欧米の場合、これが死因のトップの国が多いので仕方がない面があるが)のメリットばかりに目を奪われて、体重を落とすこと、コレステロール値を下げることのデメリットに目がいかなくなると、かえって命を縮めることがあるのだ。
コロナ自粛も同じ…デメリットに目を向けないと、命を縮める
どんな治療法や予防法にもメリットは当然あるが、デメリットが生じる可能性があることを認識して、そのうえで治療を選ぶのは当然のことだ。
外科の世界などでは、手術のメリットとデメリットを説明して、治療するかどうかを患者に決めさせるインフォームドコンセントというやり方がスタンダードだが、内科の世界では、たとえば血圧や血糖値、コレステロール値などが高ければ、それを薬で下げるメリットや胃腸障害などの一般的な副作用の説明を受けることはあっても、それが活力を落とすなどのデメリットの説明がほとんどないまま、患者の同意なしに薬が処方される。
高齢化が進むほど、活力がなくなることのデメリットが大きくなる(たとえば歩かなくなると歩けなくなるリスクは歳をとるほど大きくなる)ことを考えると、医療行為のデメリットをもう少し考える必要があるだろう。
そうした医療業界における抜け漏れと同じように、今回のコロナ感染の予防対策は、デメリットの検討も説明も不十分なものだと思えてならないのだ。