高齢者の認知能力低下…コロナ自粛の副作用で今後、起きる悲劇
私はコロナ対策のかじ取りをしてきた政府や専門家による分科会を批判したいわけではない。ただ、医者の立場から、“副作用”の想定が甘かったと言わざるを得ないこと、想定される副作用に対する対策が十分になされなかったことを残念に思っているのだ。
実際、今夏に熱中症が懸念された時期には、コロナ感染対策のマスク着用によって熱中症のリスクが高まることを想定して、厚生労働省は「屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合には、マスクをはずすようにしましょう」という注意喚起を行っていた。
それと同じように、例えば、
「自粛下でも一日30分は日光に当たりましょう」
「気分が落ち込んでいる際には、リモートなどを使って人と会話しましょう」
「夜眠れなくなったり、食欲が落ちたりしたら、気軽に精神科医にかかりましょう」
といった注意喚起があれば、自殺者数の増加をある程度抑えることができたはずだ。
メリットを強く求めるあまり、デメリットが頭に入らないバカ化
コロナ自粛の副作用は、自殺だけではない。
高齢者の場合、外出を控えたり、刺激のない生活を続けることで、足腰が弱ったり、脳の機能の低下が簡単に起こってしまう。将来の要介護率が上がってしまうのだ。これはコロナ感染予防対策に限ったことではなく、高齢者が免許を返納すると6年後に要介護率が2倍以上になるという研究結果もある。返納のデメリットを検討しない結果、将来の介護費用が大きく増えることが考えられるのだ。
本連載は「賢い人をバカにするもの」ということがテーマだが、人間の認知特性として、あることに不安になっているときは、別のことに気が回らなくなるということは往々にして見られることだ。例えば、あるメリットを強く求めるがために、もっと大きなデメリットを生んでしまうという「バカ化」現象が生じる原因になる。政府のリーダーはこの状況に陥ってしまったのではないか。
目つきが悪いことを気にしている人は、それを治そうとすることにばかり気がいってしまい、愛想をよくすることなど、ほかのやり方で人に好かれようとする努力を怠りがちだ。これでは目つきを矯正できても人に好かれないことには変わりがない。逆にかえって人に嫌われることにもなりかねない。