ワークマン大成功の仕掛け人といわれる土屋哲雄さん。還暦直前だった2012年に常務取締役として同社に入社したとき、まずは会社を隅々まで観察することにしたと言います。観察し、分析することで見えたワークマンの真の強みとは――。
※本稿は、土屋哲雄『ワークマン式「しない経営」 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
ワークマンは「しない会社」である
私はしばらくワークマンを観察することにした。
この観察によって個人向け作業服というブルーオーシャンを悠々と泳ぐ魚に、成長の限界が迫っていることがわかるのだが、それはもう少しあとの話になる。
私はこれまで多くのビジネスに携わってきたので、企業がどんな戦い方をしているのか、どのように競争相手に対して優位性をつくりあげているのかを分析するのが習慣になっていた。なにしろ還暦直前でワークマンに入社した新参者だ。勉強することは山ほどある。
現場に行って何人もの社員に話を聞き、加盟店を回り、店長にもじっくり話を聞いた。
最初に、どんな市場で、誰を相手にしてきたのかを考えた。
マーケティングであれ、新規事業展開であれ、市場を細分化し、どこをターゲットとするかという選択は、重要な戦略的意思決定になる。
最初に思ったのは、ワークマンは「しない会社」だということだ。
経営戦略の古典として名高い『新訂 競争の戦略』(土岐 坤、中辻 萬治、服部 照夫訳、ダイヤモンド社、1995年)で「ファイブフォース分析」を提唱したマイケル・E・ポーターは、「戦略とは捨てること」と言った。
経営資源には限りがあるため、何かを選んだら何かを捨てなくてはならない。