社会問題や政治問題に言及すると、叩かれる
インターネットで社会問題や政治問題に言及する女性への誹謗中傷が止まらない。
2017年10月に自らの性暴力被害を記した『Black Box』を出版し、民事裁判を闘った伊藤詩織さん。2019年1月以来、#MeTooに示唆を受けて職場での女性へのヒール靴強制に批判の声を上げた石川優美さん。2020年検察官の定年延長を可能にするための検察庁法改正案に反対するために「#検察庁法改正案に抗議します」を創り出した笛美さんと、このハッシュタグに添えて意見を投稿したきゃりーぱみゅぱみゅさんや小泉今日子さん。そして、2020年9月には、人種差別によって命を落とした黒人たちの名前入りマスクをつけて全米オープンに出場した大坂なおみさん。
もしくは、規範的なジェンダー役割から逸脱していると想定されれば、制御しがたいほどの攻撃がターゲットの女性へと向かってしまう。2020年5月に23歳の若さで自ら命を絶った木村花さんのことを、私たちはいつまでも忘れることはできないだろう。
匿名性に隠された「差別的な意識」
これらの事例に共通するのは、社会的な不正義、ジェンダー間格差、性暴力への抗議や政治問題に意見を表明したり、既存のジェンダー規範を逸脱する行為を示したりするような、「目立つ」女性がネット上で攻撃を受けているということだ。
攻撃は、SNSへの投稿や「リプ」と呼ばれる返信機能を使うだけでなく、YouTubeなどの動画投稿や投稿された動画へのコメント欄、ニュース配信サイトのコメント欄、掲示板など、オンラインの言説空間のいたるところに投下される。3年間で3万件以上もの誹謗中傷の攻撃を受けたとされる伊藤詩織さんの場合、加害者を提訴するに際して、ツイッター、Yahoo!コメント、巨大掲示板、動画投稿サイトのコメント欄などをリサーチしたそうである。
女性に向けられるSNSでの攻撃は、しばしば発話者が匿名で、特定することが難しいことから引き起こされていると語られがちである。しかし、匿名性のその奥に、実は女性への差別的な意識が隠れているのではないだろうか?