炎上は「女性だけ」の問題なのか

しかし、このように「女性への攻撃」という論の立て方によってSNSでの誹謗中傷の問題について論じていくと、当然、SNSによる暴力や誹謗中傷の被害者は女性だけではない、という意見も出てくることだろう。

もちろん、SNSでの攻撃や誹謗中傷は男性たちにも向かうことがある。しかし、男性にも向けられる「物理的な暴力を加えてやる」などの脅しに加えて、女性にはそれとは異なる種類の、より多くの攻撃が加えられていることは明らかだ。

女性にのみ向けられる暴力は、「性的な言葉で貶める」「容姿や外見を侮辱する」「知性や論理性が欠如する存在であるとしてあざ笑う」などに類型化することができるだろう。こうした攻撃を恐れ、発言する女性が減ってしまうことは、私たちの社会にとって大きなマイナスになるだろう。

インターネットというテクノロジーと、それによって生み出された言論の空間は、一般社会において発言する権利を狭められ、機会を奪われてきたあらゆるマイノリティにとって、自分たちの意見や見解を開示できる数少ない場所であるといっても過言ではない。

「男性だって攻撃されているのだから女性だけが被害者であるような顔をするな」というのではなく、女性だけの問題ではないからこそ、このSNS暴力と誹謗中傷の問題は、性別を超えたさまざまな人たちが共感でき、手を取り合って解決に向けて一緒に取り組んでいくことのできる、または取り組んでいく必要のある課題になりうるのだと私は考える。

「面と向かって相手に言える言葉か」を考える

それでは、むやみに女性を叩かない社会を作るために、私たちはどうすればよいのだろうか?

まずは、物言う女性への攻撃をなくすために、日本社会に根深くある女性への差別意識を問い直し、私たちのからだと意識に深く埋め込まれた女性への差別意識を取り除いていく必要がある。「基本的人権」という憲法の原則に立ち返り、性別に基づくあらゆる差別意識を取り除いていかなければならない。

大学での女子教育に10年以上にわたって携わっているが、自分たちを性的なものとみなし、差別的に扱おうとする日本社会に対して、若い女性たちの意識はおおきく変容しつつある。こうした若い女性たちから、何が差別的な言動であるのか、教えてもらう気持ちを持つことも必要かもしれない。

次に、「マナー」や「ルール」の構築と共有である。私たちは長い年月を費やして、対面式のコミュニケーションの場で、さらには新聞やテレビなど伝統的なマスメディアの空間でどのように発話し、どのようにふるまうべきなのかを意識し、最低限の「マナー」と基本的なコミュニケーションの「ルール」を作り上げてきた。インターネットの空間においても早急に、最低限の「マナー」と基本的なコミュニケーションの「ルール」を確立していかなければならない。

そして最後に一番たいせつなのは、投稿する前に目を瞑って相手の顔を想像してみることである。

あなたがいま投稿しようとしているコメントの内容を、まぶたの裏に浮かぶその相手の目の前で、直接声に出して発することができるだろうか。もし面と向かって放つことができないのであるならば、そのコメントを直ちに削除し、オンライン空間から自分自身を切断したほうがいい。これこそが、誹謗中傷の加害者になることから自分自身の身を遠ざける、たったひとつの冴えたやり方なのである。

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