トヨタの「おやじ」が泣いて激怒した日
池波正太郎の時代小説『闇の狩人』のなかにこんな一説がある。
仕掛人の頭目が「大切な考えはお互い、横になって考えようじゃないか」と自ら畳に横たわり、部下にも片手枕になれと促すシーンがある。つまり、リラックスして困難に対処しようという意味だ。
いいアイデアはリラックスした時に生まれる。仕掛人の頭目のように、片手枕にならなくてもいいけれど、危機の時、リーダーが行うべき態度、アイデアを生み出すためにやることはリラックスすることだ。
同社、執行役員のおやじ(正式名称)、河合満は「新型コロナに際してはリーマンの時より、対処がよかった。社長も番頭(正式名称)の小林さんも一切、怒らなかったし、にこにこしていた」と語る。
「リーマンショック(2008年)の時、僕は本社工場の工場長だった。あの時に僕は泣いて怒ったことがある。本社の部長連中は大変なことが起きた、大変なことが起きたと騒いでいたけれど、口だけだった。まったく危機意識はなかったんだ。とにかく金を使うな、出金を抑えなきゃいかん、と。最初のうちはそれしか対応策がなかった。
部長連中は事務所のなかにこもって一日中パソコンに向かっとる。僕は部長を集めて、ものすごく怒った。お前たち、こんな大きな赤字はトヨタ始まって以来だぞ、けれども、お前たちはパソコンに向かうだけで何も考えないし、体も動かさない。いいから、現場へ行け、と」
あの時とは光景がぜんぜん違った
「非稼働日(※)も何日も作った。現場は全員出てきて、4S(整理、整頓、清掃、清潔)をやっていた。機械の勉強したり、人材育成も始めてた。それなのに、部長たちは口を開けば、危機だ、大変だ、困った、困ったと言いながら、何もしようとしなかった。
『お前ら、現場に行け。今なら人もいる、物もある、設備も空いとる。やろうと思えば、人材育成だろうが、いろんなことが全部できる。それをなんでこんなところで、困った顔してるんだ』と、僕はどえらい怒ったよ。もうほんと、あの時は泣けた」
※工場の稼働を止め、生産は行わないが出勤する日のこと
「今回の新型コロナはあの時よりもまだ大変だ。ところが、社長はほんとニコニコしながらでんと構えてた。
僕は大丈夫かと心配になって現場へ行ったら、現場の連中は勝手に人材育成やらロボットの点検を始めてた。うちの保全は優秀だからね。現場の連中は保全マンを呼んで教えてもらって、自分たちで機械を手の内にしようと補修を始めていた」