新型コロナウイルスの影響で自動車業界は危機にある。だが、トヨタ自動車だけは直近四半期決算で黒字を計上した。なぜトヨタは何があってもびくともしないのか。ノンフィクション作家・野地秩嘉氏の連載「トヨタの危機管理」。第7回は「現場主義の企業体質」――。
危機管理に向いているのはどういう人間か
危機からの復旧はまず確かな情報を取ることだろう。そのうえで問題点を見つけ、問題を解決する対処策を考える。そうして、実行する。
繰り返しになるが、これが危機管理の通常の手順だ。
どの組織も通常の手順があることはわかっている。しかし、「わかっている」のに、危機管理と対処ができる組織とできない組織がある。
わかっているのに、なぜ、「できない」のか?
知っているのになぜ「できない」のか?
やり方、手順が書いてあるマニュアルも整備してあるのに、なぜ「できない」のか?
それは経験の差だ。
わかっているのとやったことがあるのでは天と地ほどの違いがある。わかっているメンバーだけでなく、やったことのあるメンバーを入れなければ危機管理はできない。
そして、ただ、やったことのあるだけのメンバーでもダメだ。実際に危機に直面して、なんとか乗り越えようとして、策を考え、力を尽くしても功を奏さなかった経験を持っている人が必要だ。
危機に際して、最初に立案したプランがそのまま通用することはない。なんど立案しても通用しないことがある。危機管理に向いているのは挫折体験を持っている人間だ。
挫折した経験を持った人間は打たれ強い。無力感を感じた後、打たれ強くなった人材がもっとも使える人間だ。
友山、朝倉、尾上……。トヨタの危機管理人たちはかつて現場に行った経験がある。失敗もしているし、無力だった自分と向き合ったことがある。だから、「できないこともある」とわかっても、まったく動揺しない。
できることだけをやればいいと思っている。危機管理、対処は100点満点にはならない。その場で短時間にできることをやる。それがトヨタの危機管理、対処だ。