パソコンではなく、あえて白板を使う理由
会議室の壁に大きな地図を貼って危機への対処行動を管理すること、加えて白板を使うことはトヨタ生産方式を錬磨する方法に由来する。
トヨタの生産調査部は同方式を広める際、壁管理と白板を活用するからだ。
ふたつのツールは主に、「自主研」と呼ばれる組織の発表会で使う。
なお、自主研とは「当該部門の長が中心となって、部門の全員が参加する研究会であり、仕事の改善を通じて職場・メンバーを成長させるのが目的」のもの。
自主研では研究発表の際、現場で見つけた問題点を壁に貼り付けて、「見える化」し、解決したことは白板に書いていく。
危機に際して、この手法を応用しているわけだ。
執行役員でチーフ・プロダクション・オフィサーの友山茂樹は言う。
「危機管理の大部屋では大きな日本地図、あるいは世界地図を用意して壁に貼りだします。そこに調達が作ったサプライチェーンマップを参考にして、途切れそうなところにメモを貼り付けていく。メモには会社名、製品は何か、日当たり何個、納入されているかといった情報が書いてあります。とにかく壁一面に貼りつける。
壁の横に、大きな白板を用意して、そこには『何月何日何時にこれを決めました』『こういう指示を出しました』『解決しました』と、どんどん書いていく。パソコンにすると見るのに手間がかかる。白板のスペースは決まっているから、解決したことなど、用が済んだ情報は消していく。壁と白板にあるのは現在情報だけです」
役員は報告を待たず、自ら見に行く
そして、もうひとつ。
幹部、管理職へ毎日、報告書を上げることはない。役員でも幹部でも、大部屋を覗いて壁を見ることが決まりになっている。
「そうです。『見に来い』が原則。社長でも番頭(小林耕士執行役員)でもおやじ(河合満執行役員)でも、みんな部屋に来て見てますよ。昔は担当が報告書を書くのに1日かけたりしていました。豊田が社長になって、ムダだと思ったので、やめさせたんです。
報告書をやめてよかったことは、大部屋に来た幹部と担当者が会話を交わすようになったこと。その場で意思決定して現場に伝えることができる。報告書を上げて決済を待っているだけで対策が遅れてしまう。
壁管理、白板が体系化したのは阪神大震災の時からで、報告書を上げなくなったのは東日本大震災の時からです」
壁管理に書く情報は現場(協力会社)の声、加えて先遣隊(トヨタ生産調査部)の声である。現場の声は状況を伝えてくる。先遣隊は解決策を伝えてくる。大部屋の本部ではそれを聞いた危機管理人たちが判断をして解決策を現場に投げる。その際、支援隊の人数、用意していくものなども現場に伝える。