新型コロナウイルスの影響で自動車業界は危機にある。だが、トヨタ自動車だけは直近四半期決算で黒字を計上した。なぜトヨタは何があってもびくともしないのか。ノンフィクション作家・野地秩嘉氏の連載「トヨタの危機管理」。第8回は「復旧作業に欠かせない保全マン」――。
マスクを着用して組み立て作業を行うトヨタ・フランス工場の従業員
写真=Avalon/時事通信フォト
マスクを着用して組み立て作業を行うトヨタ・フランス工場の従業員

「1人1人工」を養成する

平時からの危機管理で大切なことがある。それは多能工(事務職でも)を養成しておくことだ。

執行役員でチーフ・プロダクション・オフィサーの友山茂樹が説明する。

「万能工ではありません。トヨタでは隣り合った工程の仕事をできる多能工を養成しています。

まず、1人に必ず1人分の仕事をしてもらうのは人間尊重であるという考え方があります。ただ、仕事って、10個あるとしたら、それがすべて等しく忙しいわけではない。

事務系の職場でも、時期によって、あるひとりに仕事が集中してしまうことがあります。その時に、人が自由に隣り合う工程を移動できるようにしておく。それが多能工の養成です。

トヨタの社員である限りにおいて、これは常識なんです。組合とも、1人1人工いちにんくを追求するとか、仕事量の変動によって、A工場からB工場に職場が変わることは当然あることと認識が一致しています。多能工を養成しておけば危機でもフレキシブルに対処することができる」

自社以外の工場機械も使いこなす保全マンたち

危機に際して先遣隊を派遣した後、工場の機械や設備を修理、補修しに行くメンバーが要る。そんな時、現地へ出ていくのが保全マンだ。

平時の保全の仕事は自社工場の機械を安全に動かすことだ。そのために彼らは日々、点検や修理を行っている。それがいったん、災害、洪水といった事態になると、他社の工場設備や機械を復旧するために大活躍することになる。

今回のコロナ危機では工場が被災したわけではなかった。それでも彼らは支援の現場へ出かけていき、医療用ガウンなどの増産を助けた。増産のために倉庫に眠っていた古い機械を修理し、稼働できる状態にしている。また、ラインを1本、増やすための設計から機械の配置までアドバイスし、実際に手を動かした。

「トヨタの危機管理人」、朝倉正司は思い返しても「保全の人たちにはつくづく感心します」と言った。