「機械を直す」だけではない

「うちの保全はすごいですよ。地震や洪水の時に『応援に行ってくれるか?』と訊ねると、みんな、待ってました、行かせてください、と喜ぶ。保全は機械の修理をやるだけじゃなく、遊休設備を直して、動かしてしまうこともやる。行く前よりも、行った後の方が支援先の会社が儲かるようにして帰ってくる。

うちの場合、他社に比べると保全の人数は多い。だから、やれることの範囲も広いのです。ただし、保全って、いきなり一人前にならんわけです。現場の作業者で、たとえば組み立ての工程では、入って1カ月、2カ月すれば一人前に組めるようになります。だけど、保全はそうはいかない。電気制御とか日々、進歩するから、機械の勉強を怠らないようしておかないと、ついていけない。教育と実践に、時間がかかるわけです。だが、保全は危機管理、対処に絶対に必要な人材です」

保全と支援についてはあらためて、おやじの河合満、上郷工場長の斉藤富久というふたりの三河弁ネイティブから説明を受けることにする。

支援するは「人の道」

①協力会社、地域、一般企業などへの支援

トヨタの危機管理でもっとも大きな特徴とは他者への支援だろう。

阪神大震災で本格的な危機管理、対処が始まった頃、支援と言えば、それは被災した協力会社へ行って復旧に力を貸すことだった。そうしないと、部品ができてこないから、車が作れない。

ただし、現場に言ったとたん、ひとつのことに気づいた。

「協力会社だけを支援していたらダメだ。地域の人たちも一緒に助けなければならない」

以後、トヨタは支援を協力会社だけではなく、地域の人々、広く社会の人々にも行うようになった。

朝倉は「トヨタの支援には原則があります」と言う。

「人命第一、地域復興、それから生産再開です。もっとわかりやすく言えば、『人の道』ですか」

「人の道」と答えられると、かえって、わかりにくくなったのだが、そういう気持ちは置いておいて、先を続けてもらった。

工場のエンジニアは力を合わせて協力しました
写真=iStock.com/coffeekai
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なぜ、工場以外の支援もするのか

「被災した地区へ行って、うちの協力会社だけが復旧して生産を始めたりしたら、『なんだ、トヨタは自分たちさえよければいいのか』となってしまう。そうはいかんでしょう。困った時はお互い様ですし、人の道を守らんといかん。

危機の時こそ、トヨタらしい振る舞いをしなきゃいかん。おてんとさまは見てます。だから、協力会社だけでなく、まずは地域の人たちの命を助ける。次に地域を復興させる。それから生産再開のために協力会社を助ける。この順番を守らないといけません。