阪神大震災の時に、僕も現場へ行ったのですが、ああ、これはうちの関係だけを助けてはいけないな、と。だって、水も飲んでないという人がたくさんいたわけですから。水、それからウェットティッシュと生理用品を買い込んで、被災した地区へ行って配りました。危機管理、対処の知恵もやっぱり現場へ行かないとわからんのです」

記録するのに成功体験は必要ない

②記録を残す。

朝倉は「まだまだうちも大したことはない。でも、記録は残さないといけない」と感じている。

阪神大震災の時は突発的で、しかも危機管理人たちがまだまだ一人前とは言えなかった。「記録を残さなければならない」と思いつつも、とても時間がなかったし、記録する人間を確保することもできなかった。

「ただし、記録には、『うまくいった、万々歳だ』はいらないんです。残さなければならないのは3つ。

現場で新たな問題を発見したこと、うまく対処できなかったこと、なぜ、うまく対処できなかったかを書き残さないといけない。

災害の場合はとにかく復旧すること、サプライチェーンをつなぐことに専心すればいい。だが、新型コロナ危機はロックダウンや出社できないという初めてのケースでした。記録しなければいけないことがたくさんある。

ただ、あまり長い記録を作る気はない。トヨタらしく短い読み物がいいんです」

「困ったこと」を列挙するだけでも役に立つ

朝倉が言うように、企業が危機管理、対処の方法を確立し、記録するならば、新型コロナ危機のなかにいる現在がもっとも適しているかもしれない。

わたしたちはまったく新しい危機のなかにいて、右往左往している。

在宅勤務を始めた人間は多い。困ったことを列挙して、どう解決したかをまとめておけばそれだけで次の時に役に立つ。

また、個人のレベルで考えてみる。新型コロナ危機が囁かれるようになったら、あっという間に店頭からマスクと消毒薬が消えた。感染症の危機に際してはマスクや消毒薬をどうやって調達するかを記録しておくだけで、次に備えることができる。

「手に入りにくくなったもの一覧」を用意するだけでも記録としては価値がある。

※この連載は『トヨタの危機管理』(プレジデント社)として2020年12月17日に刊行予定です。

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