苦境を迎える百貨店と、重要性高まる総合スーパー
コロナによる打撃が深刻な業種の典型例が、レストランや居酒屋だ。一般社団法人日本フードサービス協会の発表によると、8月のファミリーレストランの売上高は前年同月比75.1%、居酒屋は同42.3%だ。帝国データバンクによると新型コロナ関連の倒産件数では外食関連が最多だ。
外食産業では、居酒屋の苦境と対照的に、ファストフードが健闘している。それが意味することは、多くの人が人との接触を避けつつ、効率的かつ快適に過ごすことをより重視し始めたことだ。接触を最小限に抑え、いかに満足感を高めるかは、当面の企業の生き残りを左右する基準の1つといえる。
飲食以外の業界でも、業態ごとに需要の減少と、高まりの差が明確だ。小売業界では、接客や専門知識を強みとしてきた百貨店が厳しい状況に陥った。インバウンド需要の消滅が百貨店業界に与えた影響は大きい。
それに対して、食品を中心に品物を豊富に取り扱う総合スーパーの重要性が見直された。各小売事業者は接触機会の削減、配送サービスの強化に取り組み、消費者の支持をより多く取り付けようとしている。
アパレル分野では、ビジネススーツの需要が急減しているのに対して、テレワークや巣ごもりへの対応から部屋着や機能性衣類へのニーズが拡大している。コロナショックを境に就業体制をテレワーク中心に切り替えてオフィスを解約する企業が増え、不動産需要にも変化が出ている。
外出しなければ、おしゃれの必要性は低下する。そのため、世界的に見ても高級ブランド品への逆風も強い。その影響は大きく、フランスの高級ブランド大手LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンは米ティファニーの買収を撤回した。
当初、LVMHは宝飾品事業の強化のためにティファニーを手に入れたかった。しかし、同社はコロナショックがティファニーに破壊的な影響をもたらしたと判断し、買収を撤回せざるを得なくなった。
DXの威力「接触を避けつつ、人々の満足を」
一方で、コロナショックによって経済のデジタル化を支えるIT関連の技術やサービス、物流、医療や新薬開発の重要性が一段と高まり、世界全体で需要構造の組み換えがよりスピーディーかつ大規模に進んでいる。健康志向の高まりから、自転車への需要が高まっているのもその1つだ。
特に、DXの威力は大きい。DXの役割の1つに、移動のコスト節約がある。例えば、コロナウイルスの感染が拡大する中で、世界中でテレワークが当たり前になり、人々は通勤から解放された。わが国では、本社機能を地方に移す企業が出始めた。それによって企業はオフィスの賃料などのコストを抑えつつ、自然環境豊かな場所でのより良い就労を実現できる。
コロナショックによって地方に向かう人や企業が増えていることは重要な変化だ。そうした取り組みを支える要素としてアマゾンなどのECやクラウドコンピューティング事業の重要性が高まった。このように、DXは、接触を避けつつ、人々の満足感を高めるために欠かせない。
また、DXはより効率的な時間の使い方を可能にする。動画の視聴やフィットネス、自己研鑽のための教育サービスなどをオンラインで提供する企業の成長期待が高まっているのは、テレワークなどによって浮き出た時間を有意義に過ごしたい人が増えたからだ。
DXの推進には、物流機能の強化が欠かせない。わたしたちは、ITプラットフォーム上でモノやサービスを購入し、決済(支払い)を行うことができる。問題は、自分がモノやサービスを消費したい場所まで、品物を届けてもらう必要があることだ。その点において、IT先端技術の活用と物流システムの強化はDXと不可分の関係にある。
コロナ禍の中で、街から人の姿が減る中でも宅配業者の車が多く行き来し、配達員の忙しく駆け回る姿が印象に残った。それもIT技術の活用に物流の強化が不可欠であることを示している。「ウーバーイーツ」などのフードデリバリー需要の増大にも同じことが言える。IT先端技術を用いて物流で優位性を発揮する企業は、今後の競争をより有利に進めることができるだろう。