インターネットで「炎上」に参加する人は、全体の約1%ほどだ。それなのに、ターゲットとなった人が身の危険を感じるほどの中傷につながるのはなぜなのか。炎上の書き込みをする人々は何を考えているのか。毎日新聞取材班が取材した——。

※本稿は、毎日新聞のWEB連載「匿名の刃 SNS暴力考」をまとめ、加筆した、毎日新聞取材班『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃を振るうのか』(毎日新聞出版)の一部を再編集したものです。

炎がついたスマートフォン
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炎上書き込みをする人はわずか1%

炎上に参加するのは意外に「普通の人」であることが分かってきたが、実際に参加しているのは全体から見れば、ごく少数であるようだ。

慶應義塾大学の田中辰雄教授(計量経済学)と国際大学の山口真一准教授(計量経済学)らが2014年に実施した調査で、その一端が明らかになっている。

インターネットモニター約2万人を対象に、炎上への関わりや性別、年齢などの属性を尋ねたところ、炎上を「聞いたことはあるが見たことはない」との回答が約75%を占めた。

一方、炎上に参加した経験がある人は、「1度書き込んだことがある」と「2度以上書き込んだことがある」を合わせて計1.1%だった。質問では「炎上事案に対しての書き込み経験があるか」を尋ねており、批判や中傷に限定していない。炎上している人を擁護する書き込みが含まれることを考えると、批判的な書き込みをした人はさらに少ない可能性が高い。

これとは別に、山口准教授らが16年に約4万人を対象に実施した別の調査結果によると、1件の炎上事例に書き込んだ人のうち、書き込みが3回以下だった人が69%だったのに対し、51回以上の「粘着型」とも言える人は3%だった。山口准教授は「そもそも関与する人は少なく、さらにごく少数の人たちが大量に書き込むことで大きな影響力を持ってしまう。それがネット炎上の特徴です」と語る。

「反応しておく」だけの人が多い

炎上を構成する投稿の内訳については、本書の第2章でも紹介している帝京大学の吉野ヒロ子准教授も分析している。あるパソコン販売店で「高額のサービス解約金を求められた」とした客の投稿をきっかけに炎上した16年の事案に関する約60万件のツイッター投稿を調べたところ、炎上を構成する投稿全体の6割は「なんだこれ」「こんなこと起きてるんだ」といった軽い反応だった。吉野准教授は「炎上というと、ものすごく大量に誹謗中傷が飛び交っているイメージが強いですが、話題になっているから反応しておく、という感じの人がかなり多い」と話す。

さらに、リツイートされる頻度が高かったのは、過激で攻撃的な投稿よりも、騒動を俯瞰してまとめた投稿や、面白おかしくネタにした投稿だったことも分かった。炎上参加者の大半は、冷静な人たちだったとみられている。