診療所では熱がある患者も高血圧の患者も同じ待合室で待つ

すでに知られているように、COVID-19は、無症状から重症肺炎で死に至るものまで多彩な症状を呈するため、一見健康そうに見える人も感染者である可能性は否定できない。ましてや、咳や熱が出ているとなれば、昨年までなら「普通のカゼでしょう」と対応していた患者さんにも、「もしかしたらコロナかも」と身構えなければならないのが、昨今の医療現場の実情だ。

そして当然のことながら、発熱やカゼ症状など体調不良を感じた人は、初めから感染症指定病院を訪れることはない。真っ先に受診するのは診療所だ。しかし、ほとんどの診療所には、COVID-19に対応できる設備(陰圧室や隔離部屋等)や装備は存在しない。

市中の診療所を思い浮かべてみてほしい。入口から受付、待合室から診察室まで、感染性の疾患と、それ以外の高血圧や糖尿病といった慢性疾患で訪れる患者さんとを、完全に動線で分離できている診療所など存在するだろうか。診療所はもちろん、中小規模の民間病院でさえ、感染症と非感染性疾患とを動線・待合室で完全に分離することのできる医療機関は非常に少ないと言っても過言ではない。

さらに多くの診療所には、医療従事者をCOVID-19から守るための個人防護具(N95マスクやディスポーザブルガウン)などが十分に用意されているとは言えない状況だ。

すでにCOVID-19の確定診断がついている患者さんに対応する感染症指定医療機関とは異なり、診療所ではまだ診断のついていない患者さんに対応せざるを得ないわけだから、本来であれば、カゼ症状の患者さんすべてに対して感染者であることを前提に、フル装備で、さらに患者さんごとにガウン等は新品に着け替えて対応するのが、安全サイドに立てば当然必要な対策と言えよう。

感染症指定病院「以外」の医療従事者が抱えるストレス

しかし現状は違う。患者さんごとに着替えられるほど在庫はない。けっきょくは普通の白衣とサージカルマスクだけで対応せざるを得ないのが実情、COVID-19か否かわからない患者さんに対して、ほぼ「丸腰」の軽装備で診療することを余儀なくされているのだ。

厚生労働省は、インフルエンザ、新型コロナウイルス検査のための鼻咽頭ぬぐい液検体採取の際には、「医療者に一定の暴露あり」としながらも、N95マスクの着用までは指示せず、フェイスガード、サージカルマスク、手袋、ガウン等で感染防護可能としている。そして日本医師会ですら、サージカルマスクや手指衛生の励行さえしていれば、仮に被検者がCOVID-19感染者と判明しても、対応した医療従事者は濃厚接触者には当たらないとの「考え方」を示している。

つまり一般診療所で働くスタッフは、感染症指定病院で日々COVID-19患者さんの対応に当たっている医療従事者とは、また異なる精神的ストレスに直面していることになる。

動線・待合室での分離が不可能であれば、いつ患者さん同士での院内感染が生じても不思議はない。さらに個人防護具が潤沢に備蓄されていなければ、医師や看護師、その他のスタッフに感染者がいつでも生じ得る。そしてこれらの院内感染が発生すれば、しばらくその医療機関は診療活動を休止せざるを得なくなってしまう。

それらのリスクを避けるための自衛策として、熱発者や咳などカゼ症状を有した患者さんの診療を断る医療機関があったとしても、それを頭ごなしに非難することはできない。