インフルエンザシーズンには「COVID-19疑似症患者」多発で大混乱に

信頼できるCOVID-19簡易検査キットが全国的に十分流通しないままインフルエンザシーズンを迎えた場合、熱発者に対しては、まずインフルエンザ抗原迅速検査キットを用いて診断の一助としていくことになるだろう。それで陽性結果が出れば、「まずインフルエンザであろう」と診断することが可能となる。問題は陰性結果が出た場合だ。

インフルエンザ抗原迅速検査キットは偽陰性が4割程度あると言われているため、「インフルエンザではありません」とは言い切れない。しかも今シーズンはCOVID-19の可能性も考慮に入れなければならない状況だ。つまり熱発者を検査して陰性結果が出てしまった場合、その患者さんは「COVID-19疑似症」ということになってしまう。

熱発者が多数発生するシーズンに、片っ端からインフルエンザ検査を行い、陰性結果が出た人すべてが「COVID-19疑似症患者」ということになると、現場はそのすべてを届け出なければならないことになり、ただでさえ患者さんでごった返す医療機関は、大混乱に陥ってしまう。COVID-19を指定感染症から外すべきだという論には、このような指摘があり、その点について私も異論はない。

一方で、いまだその病態のすべてが明らかになったとは言えないCOVID-19を、現時点で季節性インフルエンザと同等の5類感染症扱いとすることについては、さまざまな問題も生じてくる。ご存じのとおり、季節性インフルエンザは人から人へ伝播してゆく感染症であるし、超過死亡から推計した国内死亡者数は年間1万人とも言われる「恐ろしい感染症」である。

それにもかかわらず、毎年の流行期には一般の診療所で、特別厳重な感染防止対策も講じられることなく“普通に”診療されている感染症でもある。むろん待合室を空間的かつ時間的に分離しようと毎年尽力している診療所も少なからずあるだろうが、先述したように、そのような分離を完璧に行える診療所のほうが圧倒的に少数であることは誰もが否定しない事実だろう。

COVID-19を5類感染症扱いにすると、流行状況の把握が困難に

私が診療しているクリニックも、流行のピークを迎えれば、待合室は、インフルエンザの患者さんと、それ以外、高血圧や糖尿病の定期診察のため受診する人、ケガで血を流しながら駆け込んで来る人、中には「インフルエンザが流行してきて怖いので」とインフルエンザ予防接種のために来院してしまう人まで入り乱れて、まさに野戦病院さながらのカオス状態となってしまう。

このような毎年の状況のもと、もし今後「COVID-19を5類感染症扱いにする」という政策転換がなされれば、「COVID-19は季節性インフルエンザと同等の(同じくらいの恐ろしさの)感染症である」との認識を政府が示すことになるため、国民の中にも油断が生じるとともに、これまでの“コロナ対策疲れ”とも相まって感染対策も疎かになりかねない。

そこでインフルエンザシーズンに突入すれば、カオスの待合室にはCOVID-19の患者さんたちも“ごく普通に”含まれてくることになるわけだが、そのときにCOVID-19が指定感染症から外れていれば、医師の報告義務も無くなり流行状況を把握することも困難となってしまう。