日本は「民度」が高いから新型コロナの死者が少ない、他国は民度が低いから死者が多い。国会で麻生太郎財務相がこう発言し、物議をかもした。生物学者で早稲田大学名誉教授の池田清彦氏は「政治家の言う民度の高い国民とは、自分たちの言うことをおとなしく聞く国民を指している。それでいいのか」という——。

※本稿は、池田清彦『自粛バカ』(宝島社)の一部を再編集したものです。

閣議に臨む安倍晋三首相(左)と麻生太郎副総理兼財務相=2020年8月4日、首相官邸
写真=時事通信フォト
閣議に臨む安倍晋三首相(左)と麻生太郎副総理兼財務相=2020年8月4日、首相官邸

麻生財務相「おたくとうちの国とは国民の民度のレベルが違う」発言

日本のコロナの死亡者数がアメリカやヨーロッパより少ないことについて、財務大臣の麻生太郎がこんなバカなことを言っていた。

「『コロナの死者数が多い国から何か特別な治療薬でもあるのか』とよく電話がかかってきたが、『おたくとうちの国とは国民の民度のレベルが違う』って言ってやるとみんな絶句して黙る」

マスコミで取り上げられたのはこの6月4日の参院財政金融委員会の発言だが、毎日新聞によると、実は2カ月前(4月6日)の参院決算委員会でも「アメリカやら何やらに比べりゃ、はるかに日本の自粛のほうが効果ありますからね。アメリカ人に対して『俺たちは民度が高いからだ』と言ったら笑っていましたけれど」と述べていたという。

麻生太郎は、政府の言うことを聞かないやつばかりの国は民度が低い、お前らの国は国民がちっとも言うこと聞かないじゃないか、だから感染が拡大するんだと言いたいわけだ。

自分たち(政府)の言うことをおとなしく聞く国民ということ?

しかし、政府の言うことを聞かないというのは、自分の頭で判断して行動しているわけだから、それは自立性が高いということで、むしろ民度が高いのだ。

ところが、麻生に限らず、政治家の言う民度の高い国民とは、自分たちの言うことをおとなしく聞く国民を指している。つまり、コントロールが利く国民=国民の民度が高い、ということだ。学校で先生の言うことをよく聞く優等生は民度が高く、反抗ばかりしている不良は民度が低いと言いたいわけだ。

しかし、反抗したり学校をサボったりする生徒は民度が低いのか。反抗的な生徒は自分で判断して学校をサボり、教師の言うことを聞かないわけだから、自分の頭で考えている分だけ民度は高いと思う。

たとえば、遊牧民のマサイ族は、自国も国境もなく、そういうなかで勝手に生きている。自分たちの力だけで全部やり、自立して生きている。民度が低いなんて言われたらマサイ族は怒るよな。民度が高いに決まっている。