当初このアンティファがデモに入り込み暴力や略奪を繰り返しているとささやかれたが、そういった証拠は一切ない(略奪はデモに便乗した地元のギャングによるもの)ことは警察やFBIも認めている。それどころか、実際にはアンティファはヒトラーの時代に生まれたイデオロギーであり、今のアメリカでは特に目立った組織もない、実態不明の存在であることが分かっている。もちろん、くだんの白人男性もアンティファではない。

ちなみに冒頭の動画をめぐっても、トランプ氏は「アンティファの暴行を受けて白人男性が死亡した」(白人男性は病院に搬送されたが、容体は安定している)と虚偽の発言をし、混乱を招いている。

トランプ支持者の結束が強まっている

こうしたトランプ氏のツイートにアンチトランプ派が反応し、怒りのツイートをすればするほど情報はさらに広がり、支持者の間での「ブラックライブスマター=黒人による暴力行為」というイメージを増幅させていく。

しかしそれ以上に実態を分かりにくくしているのは、こうした情報の多くは支持者の間だけを回遊し、それ以外のアメリカ人の目に触れることはほとんどないということだ。

そのいい例として、「アンティファが白人を殺しにくる」という情報がオレゴン州やアイダホ州などの小さな街に広がった。そのため武装した白人集団が突然現れ、街の人を驚かせた。彼らと対峙することになったブラックライブスマターのさまざまな肌の色の人々による平和なデモ隊には、何が起きているのか全く分からなかったことだろう。

この真偽不明の情報は、なぜ地方にいる限られた白人にだけ届いたのだろうか? 理由は、情報がソーシャルメディア上で特定の人間に絞って拡散されるからだ。

特にトランプ支持者の場合、フェイスブックでトランプ氏や選挙対策事務所をフォローしているだけでなく、前出のケーブルテレビやトランプ支持の政治家、政治評論家、団体、ブロガー、ユーチューバーなどを軒並みフォローしたり「いいね」したりしている。

逆にトランプ支持者でない人は、こうした人物やページをフォローすることはまずない。それだけ分断が進んでいるわけだが、結果的にトランプ支持者とそうでない人々が見聞きし、共有している情報はおのずと違うものになる。

SNSや広告を駆使して支持基盤を狙い撃ち

加えて大統領選挙では、支持層を詳細に分析して狙い撃ちする「マイクロターゲティング」が与野党で活発に行われている。今や共和党とトランプ政権は住んでいる地域から学歴、勤務先、政治的イデオロギーから趣味や所属するサークルまで、一人につき3000種類もの個人情報を持っていて、これを利用してソーシャルメディアやグーグル広告などで特定の有権者に送り込む情報を細かく操作しているとされている。