娘の積立額は1000万円だが、本1冊買うのもプレッシャー

母親に戻ってもらい、別の部屋にいた父親にも声をかけました。娘は両親の前で次のポイントを語りました。

●相続の際は財産を弟と半分ずつ分けるべきだが、そうすると自分の生活費は足りるのか。そもそもすべてもらったとしても足りるのか。
●両親の死については縁起でもないので口にできなかった。
●障害年金は、「貯めておくように」と「強く」母に言われたことからずっと貯めていて、積立額は約1000万円になっている。ただ、本1冊買うのもプレッシャーで、図書館で本を借りていた。

一方、両親からは改めて、家計は赤字になっておらず、統計と比べてみても、月の支出額も多くはない、また浪費やムダ遣いはしていない、といった説明がありました。

自分たち亡き後のことが気がかりなので障害年金から生活費を入れてもらおうとは考えず、娘自身の貯蓄にしてもらいたかったことや、娘との3人の生活を守るために孫たちへのこづかいやお祝いは上限を決めていることなども合わせて説明がありました。

あまり幸せそうではない年配の女性がソファに座っている
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです

さらに、手元の預貯金(1000万円)と自宅(持ち家)は娘に残すつもりでいることも伝えられました。「あと1回は車を買い替えるだろうから、1000万円よりは減るけど、なるべく多く残したいと考えている」と父親がおだやかに語ったのです。

両親他界後に自分が「生き延びられる期間」がわかった

両親の話を聞いて、両親の気持ちや家計の状況を理解した娘は、「預貯金で暮らしが成り立つ期間を計算したい」との要望を申し出ました。

単身者の消費支出は1カ月あたり平均約16万円(「家計調査」による)。娘は運転しないので自動車関連費はゼロと想定しても、家事が得意ではないので食費は統計よりも多く見積もっておいたほうがよさそうなどとして、障害年金に対する毎月の不足額は9万5000円で計算したところ、貯蓄1000万円でカバーできるのは8年9カ月間となりました。

不足額が9万円なら9年3カ月間、7万円なら11年11カ月間、5万円なら16年8カ月間です。生活費を少なくするか、収入を増やして毎月の不足額を減らすことができれば、貯蓄でカバーできる期間を延ばすことができるとわかります。

現在70代の両親ともに元気でいてくれる間は年金収入があり、その間は、娘の貯蓄はさらにふやすことが可能です。ただ、父死亡後の母子二人の生活は貯蓄を取り崩すことになるでしょうから、親の貯蓄は現在よりも少なくなると予想されます。また、父母に介護が必要になった場合にはさらに減るでしょう。実際のところ、両親から受け取れるお金は、その時になってみないとわかりません。

その後、Aさんは娘にまかせる家事について相談しています。父親と娘は、1万円でも2万円でもいいから自分で収入を得られるといいねという話をしているそうです。

娘がお金の面で安心を得たとは言い難いのですが、貯蓄で暮らせる目安がわかったからなのか、Aさんに対する浪費の非難はなくなったようです。

お互いへの信頼がないと、当事者同士で話し合おうとしても前に進みません。そうした場合、われわれのような第三者を加えることで、話し合いがスムーズに進むケースも珍しくありません。「もう限界だ」と思う前に、ぜひ第三者に相談することを検討してみてください。

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