関西在住の金田知子さん(仮名、58歳)は、認知症の実母(88歳)と同居し、介護をしながらパートで生計を立てている。夫はいるが、15年前からの不倫がわかり、いまは離婚調停中だ。「シングル介護」で心身を擦り減らす金田さんは、いつしか「母の年金をあてにするようになった」と葛藤を打ち明ける——。
女性が一人、マグカップを手に窓の外を見つめている
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「すぐ激高し、罵声を浴びせる」家事・育児に一切協力しない夫

この連載では、「シングル介護」の事例を紹介していく。「シングル介護」とは、未婚者や、配偶者と離婚や死別した人、また兄弟姉妹がいても介護を1人で担っているケースを指す。その当事者をめぐる状況は過酷だ。「一線を越えそうになる」という声もたびたび耳にしてきた。なぜそんな危機的状況が生まれるのか。私の取材事例を通じて、社会に警鐘を鳴らしていきたい。

今回、取り上げる金田知子さん(仮名、58歳、関西在住)は、少し前まで夫と息子の3人暮らしだった。しかし、いまは88歳の母親と2人暮らし。母親を週5日デイサービスに預け、その間にパートに出ているが、生活はギリギリだ。

金田さんの父親ががんで亡くなったのは19年前のことだ。

「母は当時69歳でしたが、人生で初めての一人暮らしを満喫していました。不安もあったようですが、長い間祖父母や父の介護で自由に外出ができなかったため、数年ぶりの自由がうれしかったようです。息子ともよく遊んでくれました」

その頃、金田さんは「大学で知り合った」という夫に頭を悩ませていた。夫は結婚してから、家事も育児も一切協力してこなかった。

「息子がまだ小さい頃、高熱が出て、頭痛を訴え始めました。車の運転ができない私は、夫に『病院まで車で連れて行って』と頼みましたが、『今、食事中! 悪いなら救急車を呼べ!』と取り合わず、息子がインフルエンザになったときも、『今、手が離せない! タクシーで行け!』と怒鳴られました」

夫は息子の入学式や卒業式、授業参観には、一度も顔を出さなかった。金田さんが意見すると激高し、少しでも気に入らないことがあると不機嫌になり、金田さんのことを無視し続けたり、罵声を浴びせたりした。

「暴力こそないものの、物にあたって大きな音を立てることはあり、ものすごく怖くて、夫の顔色をうかがって暮らしていました」

そして2014年3月。息子が高校を卒業したとき、金田さんに言った。「このままここにいたら母さんが父さんに殺されてしまう。僕は社会人になったら父さんと縁を切る」。

「そこまで息子が心配してくれていたことに驚きました。できることなら、私も夫と縁を切りたい。でも、経済的に自立する自信がなく、すぐには離婚に踏み切れませんでした」