46歳の独身男性は、実家の近くに建った新築マンションの一室を、73歳の父親と71歳の母親にプレゼントした。しかし入居して約3カ月後、母親が入浴中に転倒。母親は要介護に陥ってしまう。さらに父親もがんと認知症を発症。男性は40代後半からの7年半、ひとりで両親を介護することになる——。(前編/全2回)
バスルーム
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この連載では、「シングル介護」の事例を紹介していく。「シングル介護」とは、未婚者や、配偶者と離婚や死別した人、また兄弟姉妹がいても介護を1人で担っているケースを指す。その当事者をめぐる状況は過酷だ。「一線を越えそうになる」という声もたびたび耳にしてきた。なぜそんな危機的状況が生まれるのか。私の取材事例を通じて、社会に警鐘を鳴らしていきたい。

独身の中年息子がプレゼントしたマンションで母親が転倒して……

関西地方の旅行会社に勤める狛井(こまい)正浩さん(仮名、57歳独身)は、生まれ育った家で40年以上、両親と共に暮らしてきた。昔ながらの一軒家で、段差が多く湿気がこもり、夏は暑く冬は底冷えする。狛井さんは、夜中によくトイレへ行く母親が心配だった。

そんなある日、同じ町内に新築マンションの建設が決まり、ふらっとモデルルームを見に行った狛井さんは、ひと目見て気に入ってしまう。

2009年10月、狛井さんはマンションの一室を両親へプレゼントした。当時73歳の父親と71歳の母親はとても喜んだが、翌年1月2日の夜、「最初のトラブル」に見舞われる。

新居で母親が入浴中、浴槽に足を引っかけて転倒したのだ。翌朝、病院で精密検査を受けると、第二腰椎に圧迫骨折が見つかった。

「母は頭のほうはしっかりしていたのですが、運動機能が損なわれました。家事一切ができなくなり、立ち座り、歩行、トイレ、風呂など、日常的な動作にも、介助が必要になって……。平日の日中は父親が家事と介助をして、朝と夜と休日は、息子の私がトイレや入浴介助、寝返りの介助などを担当しました」

元気だった71歳の母が骨折をきっかけに体の機能が低下し病気に

この頃はまだシルバーカーがあれば散歩ができていたため、介護認定は受けなかった。だが、父親と狛井さんだけのサポートでは回復が難しく、2年後の2014年初冬に介護認定を受けると、要支援2(※)。週に2回ほど訪問リハビリを頼んだが、それ以外の日は高齢の父親がリハビリを兼ねた散歩に付き合ったが、日に日に距離や時間が短くなり、翌年、再び介護認定を受けると、要介護2(※)に進んでいた。

悪いことは続いてしまうものなのだろうか。同年2014年2月のことだ。母親は、右足の蜂窩織炎(ほうかしきえん=皮膚や皮下脂肪に細菌が感染し、赤く腫れて痛む病気で重症化の場合は要入院)のため、約100日間入院することになる。無事完治したものの、病院で寝たきり状態がいけなかったのか、退院時には要介護3(※)に進んでいた。そのため自宅に介護用ベッドを導入し、外出は全て車いすになった。

※編註:要支援2=基本的に独力で生活できるが、日常生活動作にやや衰えが見られる状態
※編註:要介護2=歩行が不安定で、食事や排せつなどの生活動作に軽度の介助が必要である状態
※編註:要介護3=立ち上がりや歩行、食事、排せつ、入浴の際に全面的な介助が必要である状態