タイ王国 次期首相 Yinglak Shinawatra(インラック・チナワット)
1967年、タイ王国サンカムペーン生まれ。チェンマイ大学卒、米国ケンタッキー州立大学で修士号取得。帰国後に同族企業のチナワット・ダイレクトリーに入社。現在はアドバンスト・インフォ・サービス社長を務める。
総選挙の夜、野党・タイ貢献党が政権奪取を決めたのち、タイ史上初の女性首相の座が約束されたインラック・チナワット氏は支持者に向かって、顔の前で手を合わせるタイ式のあいさつを何度も繰り返した。中国人の血を4分の1引く清楚な美貌が、手を合わせる姿は祈りのようでもある。
クーデターと汚職疑惑裁判でタクシン元首相が国を追われて以来続いていた社会不安は昨年春に流血の大規模衝突まで引き起こした。その果てに実施された選挙で、兄に代わって勝利した。
タクシン氏とは18歳違いで、9人兄弟姉妹の末っ子。氏が「妹は私のクローン」と評するほど、ビジネス手腕も政治理念も兄ゆずりという。選挙戦では「もしタクシンを愛してくださっているなら、妹にもその愛をわけてください」と兄妹の絆を強調、兄と同じ貧困層重視政策を公約とするなど「タクシンの操り人形」との批判もある。
チェンマイ大学政治学部を卒業し、米ケンタッキー州立大学で修士号を取得後、兄のつくったチナワット財閥を守ることに専念してきた。政治家としては未知数ながら「私の地位は実力によるものではないと多くの人は言うけれど、だからこそ人一倍結果を出して皆を納得させなければいけなかった」と努力家を自任する。
タイ政治の混乱の本質は農民・貧困層に手厚いタクシン流政治支持者と、王族を含む既得権益層の対立だ。事実婚だが妻であり母であり、女性として非暴力を訴える彼女ならばこの対立を解消させ、国民和解を導くことができるかもしれない。だが、そのためには、あの祈りの姿が、恩赦による兄の一刻も早い帰国を望み、兄を頼りにする妹のものではなく、タイの社会と経済の安定のために献身を誓う宰相のものでなければならない。