日比谷映画街の朝8時25分、ほうきと緑色のちりとりを持った数名の男女が現れ、掃除を始める。辺りに目をやると、同じ色のほうきとちりとりを手にした人たちが出没し、なかには数寄屋橋公園や有楽町マリオンの前まで行って掃除する者もいる。

彼らは事業用不動産の売買仲介、不動産再生事業を手がけるサンフロンティア不動産の社員たちで、毎日朝礼前に周辺の清掃を行っている。晴れた日だけではない。雨の日も風の日も大雪の日も必ず30分間、街路のゴミを拾い、ちりを掃く。日比谷の本社だけでなく、銀座、新宿、神田、横浜の各事業所でも同じように近所を清掃している。

掃除はご近所で有名。中央区から感謝状をもらったこともあるという。

掃除はご近所で有名。中央区から感謝状をもらったこともあるという。

1999年にできたサンフロンティア不動産は、創業5年目に店頭公開し、今年2月には東証1部に上場した。売り上げは約350億円、従業員は125名。社長以下の全社員が熱心に掃除するから、事業所近辺は常にきれいになっている。

毎朝の掃除を始めたきっかけについて、創業者の堀口智顕社長はこう語る。

 「以前ワンルームマンションの一室を借り、ひとりで不動産の仲介をやっていました。仕事を始める前に何かをやらないとメリハリがつかない。何か体を動かしたいなと考えていたら、部屋のお手洗いの臭いが気になった。それで、朝は掃除をしてから仕事に取り掛かるようになったのです」

堀口社長はサンフロンティアを創業後、清掃と朝礼を社員に課した。社員も初めのうちは不承不承だったが、習慣となってからは汗びっしょりになるくらい全力で掃除するようになった。日々清掃を続けてきた影響なのか、社員たちはきれい好きになり、物件も丁寧に掃除して引き渡すようになった。

 「丹念に掃除をしていると、机の下など目につかない場所まで見るようになる。他人が気づかない点に目が届くのです。それも掃除の効能でしょう」(堀口社長)

(尾関裕士=撮影)