その日は朝から新幹線で東京に向かう予定だった。

(略)

これまでの僕だったら、風邪薬を飲んで、そのまま仕事をやっていた。確かに、だるさはあると言えばある。喉の痛みもある。でも、これから続く仕事のスケジュールのことを考えれば、休んでなんかはいられない。

僕の場合には、休めば収入は0。どこからも保障はされない。だから極端な言い方をすれば、自分が倒れるまでやらないとしょうがない、という感じで、これまでの人生を走ってきた。

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まあ体力に任せて無茶をやってきたから、37度3分の熱なんて、これまでだったら屁とも思わなかった。

でも今は違う。単なる体力的な問題だけでなく、感染症の場合には他者にうつし、他者の命を奪う危険性が高くなる。

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そこで、朝8時30分に新大阪に集合のところ、7時にマネジメント会社の取締役に電話して、37度3分の熱が出たので、仕事を全部キャンセルしたい旨伝えた。

取締役もすぐに同意してくれて、そこから関係各所への連絡調整と、この事態の公表の準備に入った。

ここは悩んでいても仕方がない。

そのあとの仕事関係者には大変な迷惑がかかるし、場合によっては違約金が発生することもある。

こういうときには、あーだこーだ悩まないように自分であらかじめレッドラインを引いておくべきだ。そのレッドラインを越えたら、自動的に仕事はキャンセルするというように。僕は「体温37度」にレッドラインを引いていた。

無理して仕事に出てそこで多くの人に感染させてしまった場合と、仕事のキャンセル。当然前者の方がダメージが大きい。

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ということで、何の迷いもなく、その後の仕事をすべてキャンセルして、その旨を公表した。

感染者は極悪人か? 公表を阻む社会風潮が感染拡大を招いてしまう

僕みたいな性格でなければ、これは確かに悩む事態だと思う。

まず仕事のキャンセル。収入は大幅に減る。しかし日々の経費は出ていく。

そして何よりも、それまで共演していた人に不安を抱かせてしまって申し訳ないという気持ち。

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それに加えて、家族。

家族も完全に自宅に閉じ込めなければならない。うちには子供が7人いて、学生はまあ何とかなるにしても、社会人の長女が問題だ。

すぐに会社と協議してもらって、ここは本当にありがたかったんだけど、会社がテレワークを認めてくれた。

とにかく、今の社会的風潮では、体調不良を簡単には名乗り出ることができない。感染者は極悪人扱いされるからね。

それでみんな、無理して仕事を続けてるんじゃないかな。そしてそうやって結局感染を拡大して、高齢者や基礎疾患者の命を奪っていく。