娘たちが泣くのを見ているのは辛かった

最近まで、おれは後悔に責め苛まれていた。

おれの死が近いと知って、娘たちはさんざん泣いた。それを見ているのは辛かった。

もう泣かないでほしかった。安らかにおれを看取ってほしかった。

でも、どこの病院に行っても悪い知らせばかりで、誰もおれたち家族のことをいたわってくれなかったし、慰めたり、元気づけたりしてくれなかった。

言葉ひとつかけてくれなかった。この病院に来てはじめて、穏やかな気持ちになれた。

おれがあちらの世界に行くときになっても、妻や子供たちは穏やかに見送ってくれるだろう。そのことはたがいに了解している。それで、おれはすごく楽になった。

重荷を下ろしたみたいにね。もう心配はない。家族は静かにおれを看取ってくれるはずだ。おれにはそれがとてもありがたい。

夢にも思っていなかった「180度違う人生」

人生のある時点に戻れるとしたら、メキシコの伝道農場で働いていた頃に戻りたい。

最初はまずあそこの人々に服や食料を運んでいった。

あれほどの貧しさはそれまで見たことがなかった。エンセナーダの郊外のある場所の住民たちは空き缶を集め、それを売って食べ物を買うんだ。

小さな小屋に住んでいて、蝿だらけで、体じゅう黒い汚物にまみれていた。

誰もが煙で真っ黒になって、体中に蝿がたかっていたから、誰が誰だかわからなかった。

物資を運んで、トラックから降ろすと、彼らはおれたちが立ち去るのをいつまでも待っていた。おれが「遠慮しないで、持っていってください」と言っても、小さな声で「いえ、いえ、どうぞ帰って下さい」と答えるのだった。それまでの人たちは物資をただ置いていっただけだった。彼らの家を訪ね、いっしょに神に祈り、神の愛を分かち合うなんてことはせずに。人々はそういうのに慣れていたんだ。二度目に行ったときは、小屋に招いてくれた。いっしょに床にひざまずいて、神に祈った。どうかこの人たちをこの環境から連れ出して下さい、ここは人間の住むところではありません、と。

 

その後、おれはその村の38人に洗礼をほどこすことができた。

彼らは家と仕事を手に入れ、あの泥沼から出て行った。

どんな人の心にも希望がある。彼らにもその希望が見えるようになったんだ。

大勢がアメリカやメキシコに出て行き、家を建て、生計を立てた。

おれはそれまでとは180度違うまったく異なる人生を生きるようになった。

まさかそんなことになるとは夢にも思っていなかったよ。