「自分が何をもっているか」なんてどうでもいい

アンドルー・ジョージ著、鈴木晶訳『「その日」の前に Right,before I die』(ONDORI‐BOOKS)

メキシコでの生活はおれの人生を変えた。おれにはそれが必要だったんだ。

大事なのは、自分が何をもっているか、とか、自分には何が必要か、といったことじゃない。もらうよりもあげるほうがいい。

おれはつねにそう思ってきた。自分がもっていて、他人がもっていないものを、その人にあげる。たとえちょっとしたものでも。

そうしたら、そのひとに感動を与えることができるだろう。

どんなことでも、誰かひとりから始まるのさ。

いまでもよく覚えている。小さな子どもが、何日間もパンと砂糖しか食べていない幼い妹や弟に何か食べさせていた。ズボンは穴だらけで、靴も靴下もはいていない。そんな子供たちを、ただそばで見ていることはできなかった。

 

伝道農場は4つできた。

物資を届けることから始めて、10年間、2週間に一度、物資を届けた。トラックを運転していき、彼らが欲しかった物、必要な物がちゃんと彼らの手に渡るかどうか、自分の目で確かめた。おれにとっては素晴らしい日々だった。

世界の表と裏を見ることができて、感謝しているが、おれ自身は表のほうがいいな。

妻は「真の愛」を教えてくれた

妻のロリーのことは心から愛している。真の愛だと言い切れる。

結婚して47年になるが、真の愛とはどんなものかを、妻は教えてくれた。

最初の頃だけではなく、その後も、またおれの死が近づいた最近になっても、妻はずっとその優しい手と、心と、言葉で、おれを愛してくれた。

妻はおれのことを一度も見放さなかった。明日も明後日も、妻はおれを愛してくれる。

ありのままの自分を愛してくれ、結婚以上のものを期待せず、望みもしない、おれにはそんな人がいるってことは、本当にありがたいことだ。

結婚したとき、彼女は自分がどういう人間と結婚するのかをちゃんとわかっていた。

おれが新しい生活を始められたのは、彼女のおかげだ。

おれの人生でいちばん大事な人だ。

 

おれは造園の仕事をしてきた。

地面を触ったり、泥で何かを作ったりしていると、神になったような気分だった。

お客さんはいつも、「庭を生き返らせてくれて、ありがとう」と言ってくれた。

そういう言葉はいつでも嬉しかった。

 

おれは満足し、平和で、落ち着いている。不安も恐怖もない。ただ、興奮している。

何かが泡みたいに湧きあがってくる。結婚する直前みたいな感じだ。

長年にわたってまいてきた種子を、いま収穫しているんだ。愛の種子。

 

メキシコにいた10年間で、伝道農場を8カ所建てた。

自分よりも不幸な人たちを助ける、それがおれの人生の目標だった。

いい闘いだった。やるべきことはなしとげた。やましいことは何ひとつない。

おれは胸をはって、何も身につけず、この地上から出て行き、昔やってきたのと同じ道を行くんだ。