クラブ活動の引率も残業代は支払われず

では、いかなる場合にも残業代が発生しないのか。この給特法の解釈についてのリーディングケースである、将棋クラブの大会引率指導についての残業代に関わる名古屋地裁昭和63(1988)年1月29日判決を見てみよう(なお、公立学校の職員に直接適用されるのは給特条例なので、条例に対する判断という形式になっている)。

重要部分を引用する。

「時間外勤務等が命ぜられるに至った経緯、従事した職務の内容、勤務の実情等に照らして、それが当該教職員の自由意思を極めて強く拘束するような形態でなされ、しかもそのような勤務が常態化しているなど、かかる時間外勤務等の実状を放置することが同条例七条が時間外勤務等を命じ得る場合を限定列挙して制限を加えた趣旨にもとるような事情の認められる場合には、給特条例三条によっても時間外勤務手当等に関する給与条例の規定の適用は排除されないと解するものである」

要約すると次の条件を満たせば残業代が発生すると言っている。

①残業命令が自由意思を極めて強く拘束するような形態でなされること
②そのような勤務が常態化していること
③それを放置することが、残業命令できる場合を制限した給特条例の趣旨にもとること

引率指導を拒否できるはずがないのに…

しかし、裁判所は結局この将棋クラブの引率について、次のように認定して残業代の発生を否定してしまった。

「形式的にはあくまで依頼するとの意思のもとになされたものであるなどの前認定の事実並びにこれまでの慣行などから右依頼に応じないと職務命令違反の責任を問われるとか、不利益な取扱いを受ける虞れがあるなどの特別の事情も認められないことに照らすと、本件引率指導が原告の自由意思を強く拘束するような形態でなされたことも、また、こうした勤務が日ごろ度々行われ常態化していて、かかる勤務の実情を放置することが、給特条例七条が時間外勤務等を命じ得る場合を限定列挙して制限を加えた趣旨にもとるような事情がある場合に該当すると認めることはできず、他にこのような特別の事情を認めるべき証拠はない」

引率指導を拒否できる教師がどれくらいいるだろうか。自分に置き換えて考えてみてほしい。拒否したら校長はもちろん、生徒からも保護者からも非難されるだろう。自分が拒否しても代わりにだれかが行かされることになり、その教員からも非難されるだろう。拒否できるはずがない。

しかし、この裁判例は、「自由意思を極めて強く拘束してはいない」と判断している。給特法に詳しい萬井隆令龍谷大学法学部名誉教授によれば、この裁判例の示した判断基準が実務上通説になっているという。