Peter Ferdinand Drucker-P・F・ドラッカー(1909~2005)
アメリカの経営学者。オーストリア生まれ。ナチスへの不信から渡英。『経済人の終り』(1939)、『産業にたずさわる人の未来』(1942)、『会社という概念』(1946)の著作によって有名になり、『現代の経営』(1954) において不動の地位を築いた。現代は大量生産原理に立脚した高度産業社会だとして、アメリカでは数少ない体系性と歴史性をもった制度派的経営理論を展開した。
企業経営に与えた影響があまりに大きいため、ドラッカーは「マネジメントの父」として名高い。しかし彼の扱った分野は幅広く、政治、社会、経済、経営、哲学におよぶ。専門分野のみに偏ることを嫌った彼は社会の永続的な発展と安定に関心があった。
その意味で彼は、社会生態学者であり、現代における哲人の一人であると考えている。
現在、100年に一度といわれる世界的な不況が日本を襲っている。今こそ、ドラッカーの言に耳を傾けるべきだ。日本人の多くが勇気づけられることだろう。
彼は日本については何と言っているのか。
まず「日本人の強み」だ。ドラッカーは「道(どう)」と『源氏物語』を絶賛している。江戸時代の武士は「剣道」と「書道」という2つの技術を持つ。「道」には終身訓練が求められ、名人となっても、訓練を続けなければその技術は急速に低下してしまう。さらに『源氏物語』にある日本人の持つ美意識、知覚的な感覚がいまでも根付いていることに大きく共感する。
こうした日本が誇るべき歴史的な感覚が日本の近代組織にもしっかり受け継がれている。
次に「日本企業の強み」。労働者やサラリーマンが会社との連帯意識を強め、一体となって経営の改善に努めていく。
50年代に経済が安定するまで、日本は世界でもっとも激しい労働争議に明け暮れていた。それにもかかわらず、労使交渉ではアイデアを互いに出し合い、見事に乗り切った。トヨタ自動車はその好例であろう。
ドラッカーは日本の「系列」システムやライバル企業間の競争にも着目する。
親会社も含む日本の系列企業群は、個々の企業の集まりでありながら、互いの企業の仕組みや経験も共有している。各企業間で情報をもらすまいとする欧米諸国とはまったく違う感覚だ。「ソニーと松下(現パナソニック)」「三井銀行(現三井住友銀行)と富士銀行(現みずほ銀行)」のライバル企業間の競争にあっても、日本企業は絶対的な勝利を収めることよりも対立が双方にとって生産的なものにすることに留意する。