ネームは必ず声に出して読む
漫才のシーンに関しては、イメージだけでセリフは書かないという選択肢もありました。でも、せっかくセリフが書けるんだから、そこは逃げないで、恥をかくつもりで描くことにしました。ネタを書いて披露するって、結構恥ずかしいことなんですね。だから、お笑いの漫画を描かない人は多いと思います。その点、僕は割と恥知らずなところがあるので、こういう漫画を描けるのは僕だけだと思っています。
漫才のシーンを描いてみてわかったのは、ボケが右側にいないと描きにくいということです。漫画は右から左に読んでいきますから、ボケて、突っ込むという流れをスムーズにするには、右にボケ、左にツッコミという立ち位置がいいんです。
『べしゃり暮らし』の主人公・圭右(けいすけ)の漫才での立ち位置は右側です。最初はボケだったので、それで良かったんですが、途中からツッコミに変わった時に、これはやりにくいな、と思いました。だから、漫才をしている2人の後ろ姿をあえて描くことで、ツッコミの圭右が左側に来るようにして、ボケからツッコミへの流れをスムーズにするような工夫をしました。
ネームを作る時は、いつも自分でセリフをぶつぶつ声に出しながら書いています。周りから見たら不気味ですよね。だから、いつも仕事場で1人きりの時にやります。音読して、テンポなどがしっくりこなければ直すんです。そもそも、僕は黙読というのがなかなかできなくて、人の漫画でも文章でも、声を出して読まないと読めないんですよ。目だけでなく耳からも入ってこないと、頭に入らないのかもしれません。
お笑い漫画のギャグは絶対にダメ
僕はギャグシーンを描くのが大好きで、『ろくでなしBLUES』や『ROOKIES』にはたくさん入れています。だけど、『べしゃり暮らし』では、ギャグは一切描いていません。「笑い」がテーマの漫画でウケを狙うためのギャグを描いてしまうと、何が面白いのかがわからなくなってしまうからです。だから、例えば『ろくでなしBLUES』の小兵二のような、リアルではない漫画的なキャラクターは絶対出せないんです。そういう意味では、『べしゃり暮らし』の校長先生はちょっと『ろくでなしBLUES』よりのキャラになっていて、失敗だったかもしれません。
『ろくでなしBLUES』にはギャグシーンがたくさんありますけど、登場人物たちは突っ込んだり呆れたりするだけで、決して笑いません。その方が、読者が笑えるからです。もし小兵二が何か面白いことをやって、周りの人が笑ったとしたら、そのシーンは読者から見ると、つまらなくなってしまうはずです。
それに対して『べしゃり暮らし』は、お笑いがテーマなので、主人公が面白いことをやったら、周りの人たちは笑わないといけません。しかし、そんなふうに先に笑われてしまうと、読者にとっては面白くないはずなんです。だから、読者を笑わせようとするのは、早々に諦めました。漫画の中の人も笑っていて、読者も笑ってくれるなら、それが一番いいんですけど、難しいですね。